化学的転写法による処理前後の多結晶シリコン
化学的転写法による処理前後の多結晶シリコン
(出所:大阪大学)
[画像のクリックで拡大表示]
シリコンナノクリスタル層での電子とホールの再結合を防止するために開発したPSG法
シリコンナノクリスタル層での電子とホールの再結合を防止するために開発したPSG法
(出所:大阪大学)
[画像のクリックで拡大表示]

 大阪大学は7月21日、簡単な溶液処理によって反射率3%以下の極低反射シリコンウエハーを形成する方法(化学的転写法)を開発したと発表した。同技術を用いることで、反射防止膜が不要な単純構造のシリコン太陽電池を作成できる。同太陽電池は、変換効率20%を達成したほか、製造コストを約2割低減できると期待されるという。

 シリコンの反射率は、平坦面では30~55%と高く、反射防止が太陽電池の高効率化で必須となる。従来は単結晶シリコンを強アルカリ性水溶液で20分程度エッチング処理してシリコン表面にピラミッド構造を形成することで低反射化していた。だが、この方法だと反射率は10%以上とあまり低くならず、プラズマCVD法など高価な手法を用いて反射防止膜を形成する必要があった。

 今回開発した化学的転写法は、シリコンウエハーを過酸化水素水(H2O2)とフッ化水素酸水溶液(HF)の混合溶液に浸し、白金触媒体に10~30秒接触させるだけで、瞬時に表面にシリコンナノクリスタル層が形成されるという。シリコンナノクリスタル層は、表面近くでは隙間が多く、深さとともに少なくなる構造で、深いほど屈折率が増加するため反射がほとんど起こらない。

 一方で、シリコンナノクリスタル層は、莫大な表面積を持つため、効果的な表面パッシベーション処理を行わなければ、光生成した電子とホールが表面で再結合して消滅し、変換効率が低下する。この再結合を防止する手法として、リン珪酸ガラス法(PSG法)を新たに開発した。PSG法を用いない場合は、太陽電池の変換効率は約15%にとどまったが、PSG法を用いることで20%まで向上したという。

 今回開発した低反射化技術は、単結晶と多結晶の両方のシリコン太陽電池に用いることができる汎用的な技術となる。また、従来は低反射構造の形成が困難で太陽電池にはほとんど使われていなかった、安価な固定砥粒法で製造される多結晶シリコンウエハーを容易に極低反射化でき、発電コストの低減に大きく寄与するという。

 今回の研究は、科学技術振興機構戦略的創造研究(CREST)の一環として行われた。また、研究成果の一部は、学術誌「Solar RRL」2017年7月号に掲載された。