図1 ARM買収を発表するソフトバンクの孫社長
図1 ARM買収を発表するソフトバンクの孫社長
(画像:ソフトバンクグループの動画からキャプチャー)
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 「将来人類の頭脳を超えるであろうものを人類が自らの手で発明し、この世に生み出した。『いずれ人類の脳細胞の働きをはるかに超えていくだろう』と、その時に思って、その怖さと感激と興奮が、一瞬の間に私を涙が止まらない状況にしてしまった」。「私の人生で最もエキサイティングな発表」と位置付ける英ARM Holdings社の買収を報告する壇上で、同社社長の孫正義氏が語り始めたのは、40年前の1976年、初めてマイクロプロセッサーの写真を見た時の感動だった(図1)。「その時すでに『シンギュラリティ』の時代が来ると感じて涙を流した。(シンギュラリティという)言葉はなかったが、考え方はそうだった」(質疑応答での同氏の発言)。

シンギュラリティ実現がゴール

 シンギュラリティとは、ざっくり言えば「コンピューターの能力が人の知性を上回る」ことである(関連記事1)。ソフトバンクのARM社買収の根本には、 シンギュラリティを自ら引き寄せ、その後に訪れる社会のビジョンを自ら現実にしていきたいという孫氏の思いがあるようだ。実際、6月に開催した同社の株主総会で同氏は、シンギュラリティは「人類史上最大のパラダイムシフト」であり、その到来によって「我々人類と(コンピューターが実現する)超知性が共存し、より豊かな、より幸せな時代がやってくる」と主張した。「僕はそのことのために生まれた、そのことに人生を捧げたい」とまで発言している。

 この構想の実現に向けて、同氏はARM社の技術をどう活用していくのか。記者発表会での説明はこうだ 。「ARMのチップが、これからありとあらゆるところに入っていって、これらが多くのビッグデータを提供し、このデータが人工知能をより高度なレベルの知性に持っていく」(同氏)。いわゆるIoT(Internet of Things)端末に内蔵して、クラウドとの間でさまざまなデータをやりとりするための標準的なプロセッサーになるというわけだ。携帯電話機などの携帯機器で業界標準の座にある上、組み込みマイコンの市場も侵食してきたARMプロセッサーにとって、順当な進化の方向と言えるだろう(関連記事2関連記事3)。