NTT先端集積デバイス研究所は2017年7月18日、従来型のSi光変調器と比べて小型で低消費電力となる材料・構造の光変調器を開発したと発表した。併せて、32Gbps(ビット/秒)の変調動作を確認。100Gビット/秒のEthernet(25Gビット/秒×4)へ適応可能なことを示した(プレスリリース)。この成果は英国科学雑誌「Nature Photonics」のオンライン版で現地時間2017年7月17日に公開された。
光変調器は光ファイバー通信の送信部に使われる主要なデバイスの一つ。MZ(Mach-Zender)光変調器と呼ばれるタイプが一般的である。NTT先端集積デバイス研究所は今回、Siデバイス上に光回路を形成する「Siフォトニクス技術」をベースに、InP系化合物半導体(p型InGaAsP層)を効果的に集積する技術を組み合わせることで、小型で低消費電力な光変調器を実現した(図1)。
小型にできたのは、光変調器の性能指標の一つである変調効率(半波長電圧と変調領域長の積)を0.09Vcmと従来比で約10倍に高めたため。低消費電力化は挿入損失を1dB(250μm長素子)に抑えられたことによる(図2)。
将来のトラフィック爆発に備える
今回のInGaAsP/Si光変調器ではSi材料とInP系材料という異種の材料を集積する構造を選んだ。シリコンフォトニクス技術をベースとするのは、光デバイスの圧倒的な大規模化と低価格化を実現するためである。
「今後もトラフィック需要増が見込まれるデータセンターでは、光デバイスの低コスト化の要望が極めて強い。一方で、光技術の領域における部材の低価格化や組み立て工程の自動化、海外生産といった対策は限界に近づいている。抜本的な低コスト化の対策として、Siフォトニクス技術による高集積化の流れに乗りたい。ただし、従来型のSi変調器では変調効率と光損失がInP系変調器を上回れない。そこでSi材料とInP系材料の“いいとこどり”を目指し、Siプラットフォーム上に高集積な光変調器を実現した」(NTT先端集積デバイス研究所 NTTナノフォトニクスセンタ 上席特別研究員 主幹研究員の松尾慎治氏、写真1)。
松尾氏は今回のInGaAsP/Si光変調器の開発に先立ち、データセンター内の光ファイバー通信に向けた薄膜レーザーをシリコンフォトニクス技術ベースで開発済み(関連記事)。「シリコンフォトニクス技術が不向きとされるレーザーや高性能な光変調器を、InP系化合物半導体をSiデバイス上に集積することで実現する。こうすることで、複数の光素子を1チップにまとめた光集積回路を安く省エネに作る」(松尾氏)と展望を語る。実用化のめどは5~10年先とする。