川崎重工業はPLM(Product Lifecycle Management)システムと、製品のアフターサービスを担うCRM(Customer Relationship Management)システムを連携させ、稼働中の製品の情報を設計にフィードバックするとともに、アフターサービス内容を高度化することを目指した取り組みについて明らかにした。同社は、全社のITシステム部門が主導してPLMシステムの構築を進めており、それを拡張する試み。アフターサービスの現場やIoT(Internet of Things)で得た情報を分析し、不具合の原因調査や事前検知を経てサービスを実施するまでの記録から得た知見を設計にフィードバックする。さらに、データ分析に人工知能(AI)技術などを応用する。

 同社は事業部門ごとに、二輪車のような量産、航空機や鉄道車両のような準量産、プラント装置のような一品生産と生産形態が大きく異なる。このため、製品の設計生産に直結するPLMのようなシステムは、以前は各事業部門がそれぞれ構築しており、全社IT部門は会計や人事を担うERP(Enterprise Resource Planning)やOA関連を担当していた。しかし2012年ごろから、ものづくりのシステムに関しても全社IT部門が関与した方が、各事業部門がシステム維持などにかける労力を軽減できるといった判断で方針を転換した。

 とはいっても、事業部門ごとにPLMへの機能要求が異なるという事実は変わらないため、事業部門の要望を1つひとつ実現するという形で全社IT部門がシステムを構築するのでは効率的ではない。それに、事業部門ごとのIT担当部署はPLMシステムを構築できる実力を持っている。そこでカスタマイズ容易なツールを使い、事業部門でしか使わない機能はその事業部門のIT担当部署がカスタマイズで実現することとし、全社部門としては多くの事業部門に共通する要件と、近い将来の業務形態の変化を予測して必要になりそうな要件を盛り込むことにした。全289件の機能開発のうち、半分近くの139件は将来を見越したシナリオを基に要件を決めた。

 さらに、このシステムはPaaS(Platform as a Service)として各事業部門に提供する。すなわち、全社IT部門から機能を事業部門に押し付ける形ではなく、各事業部門がそれぞれの立場で使えそうな部分を使えばよいという位置付けにした。ツールは「Aras Innovator」(米Aras社)を利用。現在、産業用ロボットの事業部門など、複数の部門が利用を始めている。

 川崎重工は、このPLMシステムとCRMシステムを連携させる開発を現在実施しており、2017年10月に稼働を始める予定だ(図1)。CRMシステムには顧客に納入した製品の部品構成情報、保守作業の担当者が作成した保守内容やトラブル原因の情報があり、これをPLMシステムを通して設計部門にフィードバックする仕組みを設ける。設計部門は設計変更などの是正措置を実施し、この記録をPLMシステムに蓄積する一方、CRMシステム経由で営業や保守の担当者に知らせるようにする。

図1 PLMシステムとCRMシステムの連携
図1 PLMシステムとCRMシステムの連携
出所:川崎重工業
[画像のクリックで拡大表示]