「米国では、FDAが一部の医療用ICTアプリを医療機器として承認した。海外では、薬のように医師がアプリを“処方”しているところもある」――。医療用アプリの動向をそう話すのは、東京大学大学院 医学系研究科 特任准教授の脇嘉代氏だ(関連記事)。2016年7月6日の「第5回 健康長寿ループの会」(東京大学)に登壇した同氏は、2型糖尿病患者向けの自己管理支援システム「DialBetics」について話した。

 DialBeticsは東京大学大学院 医学系研究科 健康空間情報学講座とNTTドコモが共同開発したもの。患者が専用アプリを通じて、家庭で測定した血糖値や血圧、食事量などのデータをサーバーに送ると、危険水準かどうかを自動で判定。リスクが高いと判断された場合は、医師にデータを転送する仕組みだ。リスクについては、治療ガイドを基に作ったアルゴリズムで自動判定しているという。患者に対しては携帯電話端末を介してフィードバックする。

 同アプリを臨床研究として実際に利用した患者34名にアンケートを実施したところ、次のような結果が得られたという。「使用するためにとられた時間分の価値があると答えた割合が94%、測定データとして生活習慣を確認することで安心感が得られと答えた割合が97%だった」(同氏)。

 一方、日常のスケジュールにアプリを使う時間を組み込むことについては、半数が「難しかった」と答えたという。「ICTアプリを使うのに、全く負担がないというわけにはいかない。しかし、不健康になった場合はさらなる負担がのしかかる。健康に過ごすことは当たり前で簡単そうに聞こえるが、実は難しい」(同氏)。

 来院する患者に同アプリを勧めて実感したことは、「医療従事者が勧める“お墨付き”のアプリに対しては利用意欲が強い」(同氏)ことだとし、医師の推薦が大きな意味を持つと見解を示した。この姿は、薬事承認された医療用アプリの事例にまだ乏しい、日本ならではの“医師によるアプリ処方”といえるだろう。DialBeticsは目下、厚生労働省の「先進医療β」に申請中だ。