スマートフォンや、サーバー、ゲーム機など、従来のアプリケーションが求める性能とコストを満たすべくCMOSの微細化は続いている。その一方でIoTや、人工知能をはじめとした新しいアプリケーションでは従来とは異なり、情報処理におけるエネルギー効率の高いデバイス技術が求められている。

 「2016 Symposia on VLSI Technology」(2016年6月14~16日、ハワイ・ホノルル)では10nmノード以降の高性能シリコンCMOS技術に関する報告がなされた一方で(日経テクノロジーオンライン関連記事1同関連記事2)、従来のシリコン技術だけでは実現の難しい高エネルギー効率を目指す集積デバイス技術が多数報告された。この記事では、(1) 材料、(2)トランジスタ技術、(3)アーキテクチャー、(4)非フォンノイマンコンピューティング、の観点から注目のデバイス技術を紹介する。

微細な2次元材料トランジスタ

 (1)の材料では、シリコンプロセスと高い整合性をもつ微細2次元材料トランジスタが目を引いた。例えば、台湾National Applied Research Laboratories(国立実験研究院)のNational Nano Device Laboratories(国立ナノデバイス実験室)と、 サウジアラビアKing Abdullah University of Science and Technologies、台湾National Chiao Tung University(国立交通大学)、台湾National Tsing Hua University(国立清華大学)、米University of California、Berkeley校のグループは、10nmのチャネル長のMoS2MOSFETをCMOSプロセス技術と整合性のよいプロセスによって作製し、短チャネル特性の優れたトランジスタ特性を実証した(講演番号:T6.1)。高密度・高性能なヘテロジーニアスインテグレーションの大きな可能性を示した。

 MoS2については、低抵抗なコンタクトを形成するには適切な仕事関数をもつ金属材料を用いる必要がある。しかし、往々にしてそれらの金属材料はパターニングが困難であり、CMOSプロセスとの整合性がよくないため、コンタクト形成は課題となっていた。今回、ドープしたポリシリコンの仕事関数がMoS2の伝導帯、価電子帯のエネルギーレベルに近いことに注目し、ポリシリコンに微細トレンチを形成、その中にチャネルとなるMoS2を制御性よくCVD成長する技術を開発した。講演ではPFETのみ示したが、質疑応答でNFETもすでに動作を確認したことを明らかにした。同グループによるMoS2 CMOSの報告が待たれる。