会見に出席した京大総長の山極壽一氏(左)と日立の代表執行役 執行役社長兼CEOの東原敏昭氏(右) 日経エレクトロニクスが撮影。
会見に出席した京大総長の山極壽一氏(左)と日立の代表執行役 執行役社長兼CEOの東原敏昭氏(右) 日経エレクトロニクスが撮影。
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日立京大ラボは京大内に設立され、日立の研究者が8名常駐 京都大学のスライド。
日立京大ラボは京大内に設立され、日立の研究者が8名常駐 京都大学のスライド。
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第1のテーマ「2050年の社会課題と、その解決に向けた大学と企業のありかた」の概要 日立のスライド。
第1のテーマ「2050年の社会課題と、その解決に向けた大学と企業のありかた」の概要 日立のスライド。
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第2のテーマ「人や生物の進化に学ぶ人工知能」の概要 日立のスライド。
第2のテーマ「人や生物の進化に学ぶ人工知能」の概要 日立のスライド。
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第3のテーマ「基礎物理のための最先端計測」の概要 日立のスライド。
第3のテーマ「基礎物理のための最先端計測」の概要 日立のスライド。
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 京都大学と日立製作所は、2016年6月23日に都内で報道機関に向けて、両機関による研究所「日立未来課題探索共同研究部門(日立京大ラボ)」の開設を発表した(ニュースリリース)。日立京大ラボは、京大の吉田キャンパスにある国際科学イノベーション棟に設けられる。

 日立は、今月(2016年6月)に入って、今回と同様に国立大学と組んだ共同研究所の開設を発表している。最初は北海道大学と設立した「日立北大ラボ」(日経テクノロジーオンライン関連記事1)、続いて東京大学と設立した「日立東大ラボ」(同関連記事2)である。今回を含めて3つの研究所いずれも、大学内に設立し、そこに日立の研究員が常駐する。また、日本政府が提唱する「超スマート社会」の実現に向けた取り組み「Society5.0」を支援することを謳う(うたう)。

 同社は2015年4月に研究開発体制を刷新し、大きく3つの組織へ再編した(日経テクノロジーオンライン関連記事3)。顧客との協創を狙う「社会イノベーション協創センタ(CSI)」、実際の開発を担う「テクノロジーイノベーションセンタ(CIT)」、長期的な視点で最先端の研究を行う「基礎研究センタ(CER)」である。このうち基礎研究センタが、上述した3つの国立大学内の共同ラボに関係する。

 日立のCTO兼研究開発グループ長で執行役常務の鈴木教用氏によれば、基礎研究センタの研究員は全部で約100名で、このうち30名程度が大学内の共同ラボに勤務することになる。鈴木氏によれば、上述の3つの共同ラボと同じ運営スキームで慶應義塾大学とも共同研究を行うことを2016年2月に発表しており(ニュースリリース)、30名はこれら4つの共同ラボで働く日立の研究員の総数である。なお、同氏によれば、この運営スキームでの共同ラボは今回の日立京大ラボの設立で一段落し、当面は新規設立の予定はない。

 4つの共同ラボは、運営スキームおよびSociety5.0の支援という点では同じだが、それぞれの狙い(重点テーマ)には違いがある。慶大とはサイバーセキュリティーを研究する。北大とは北海道が直面する社会課題の解決に挑む。東大とは、Society5.0のビジョンの創生と発信を狙う。そして、今回、発表した、京大とは次の3つをテーマにした。

 すなわち、(1)2050年の社会課題と、その解決に向けた大学と企業のありかた。(2)人や生物の進化に学ぶ人工知能。(3)基礎物理のための最先端計測、である。このうち、(1)の「2050年の社会課題・・・・」では、研究所が取り組むべき長期テーマを探る。成果はオープンなワークショップを開催する形で公開される。

 (2)の「人や生物の進化に学ぶ人工知能」は今回の報道機関向け会見で最も力が入っていたテーマである。生物の集団としての振る舞いや個としての振る舞いをモデル化し、それを人工知能に取り込むことで、AI技術を一段以上高いレベルに引きあげることを狙う。成果は日立が開発する社会システムなどに取り込まれる形で、活かされる。

 (3)の「基礎物理のための最先端計測」では、先端の計測技術を使って物理現象を解明し、新たな材料の開発などを狙う。具体例としては、超低電力メモリーと期待されるスキルミオン物理の解明や、ナノ粒子による新しい超合金の開発を挙げていた。