今回開発したHVPE装置の反応炉(左)と反応炉内の成長メカニズム(右)
今回開発したHVPE装置の反応炉(左)と反応炉内の成長メカニズム(右)
(出所:産総研)
一般的な縦型炉(左)と今回採用した水平置き縦型炉(右)
一般的な縦型炉(左)と今回採用した水平置き縦型炉(右)
(出所:産総研)
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反応炉内の概略図
反応炉内の概略図
(出所:産総研)
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HVPE装置で作製したGaAs太陽電池の構造図
HVPE装置で作製したGaAs太陽電池の構造図
(出所:産総研)
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 産業技術総合研究所(産総研)、大陽日酸、東京農工大学は6月13日、低コストでガリウムヒ素(GaAs)太陽電池を高いスループットで製造できるハイドライド気相成長(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)装置を共同開発したと発表した。同装置を用いて試作したGaAs太陽電池は、HVPE装置では世界トップレベルの変換効率20.3%を実現したという。

 III-V族化合物太陽電池のひとつであるGaAs太陽電池は、他の太陽電池と比べて変換効率に優れる。その一方、従来、製造に用いるMOVPE製造装置は、ガリウム(Ga)やインジウム(In)の原料として高価なトリメチルガリウム、トリメチルインジウムなどの有機金属を用いるため製造コストが高いのが課題だった。

 今回開発したHVPE装置は、安価な純金属を原料に用いるため成膜コストを低減でき、かつ成膜速度もMOVPE装置の10倍以上を実現できる。しかし、成膜の高速性とナノメートルオーダーの制御性、均一性は一般的にはトレード・オフの関係にあり、これまで商用機は開発されていない。米国再生可能エネルギー研究所(NREL)が太陽電池製造用途の縦型炉を試作しているが、縦型炉では商用機の実現に必要な成膜面積の大型化・大口径化が課題とされる。

 研究チームは今回、HVPE商用機をガスの熱対流や温度の制御がしやすく、大型化・大口径化に有利である水平置き縦型炉をベースに開発した。反応炉はGa、Inの原料金属を入れたボートが設置されている原料部と、GaAs基板が設置される基板部から構成された非真空かつシンプルな装置構成で、MOVPE装置と比べて装置導入コストを低減できる。

 多層構造を安定して高速成膜できるように、GaAsを成膜するための成膜室A、InGaPを成膜するための成膜室B、AsH3、PH3雰囲気中で熱クリーニングを行うための待機室Cの3室マルチチャンバー方式を採用。あらかじめガス種の異なる成膜室を用意し、成膜室を適切なタイミングで切り替えて、明確な界面を有する多層構造の成膜を可能にした。一般的なMOVPE装置では困難な30μm/h以上の高速成長を実現した。

 成膜したGaAs太陽電池の電流-電圧特性を調べたところ、短絡電流密度26.4mA/cm2、開放電圧0.93V、曲線因子83.0%、変換効率20.3%を得られた。この結果は、NRELが試作した縦型炉を用いて作製されたGaAs太陽電池とほぼ同等(効率20.6%)で、世界トップレベルの性能を示した。さらに、原料ノズルの改良と基板回転機構の導入により、従来は30.1%に留まっていた面内均一性を2.5%まで向上し、産業用に使用される4インチ以上への大口径化を可能にした。

 今後は、GaAs太陽電池が一般用にも広く普及できるように、一層の低コスト化と高効率化へ研究を進める。特に、成膜速度100μm/h以上で4インチ以上の産業用大口径基板上に均一性良く太陽電池を成膜する技術を展開する。さらに、産総研が保有するスマートスタック技術による接合を利用して、低コストGaAs太陽電池とSi太陽電池を組み合わせた低コスト・高効率多接合太陽電池の実現を目指す。

 今回の研究開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/革新的新構造太陽電池の研究開発/超高効率・低コストIII-V化合物太陽電池モジュールの研究開発(低コスト化技術・量子ドット成長技術)」(2015~2017年度)の支援を受けて実施した。