シート状C<sub>3</sub>N<sub>4</sub>とRu複核錯体を組み合わせた複合光触媒によるCO<sub>2</sub>還元
シート状C3N4とRu複核錯体を組み合わせた複合光触媒によるCO2還元
(出所:東工大)
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 東京工業大学は6月9日、ルテニウム(Ru)複核錯体と窒化炭素から構成される融合光触媒が、可視光照射下での二酸化炭素(CO2)のギ酸への還元的変換反応に高い活性を示すことを発見したと発表した。ギ酸は、適当な触媒を用いれば水素(H2)とCO2に分解できるため、貯蔵や輸送が困難な水素のキャリア(エネルギーキャリア)として注目されている。

 これまでに研究チームは、有機高分子半導体である窒化炭素(C3N4)とRu錯体を融合したハイブリッド材料を光触媒として、常温常圧下での可視光照射でCO2を還元することに成功している。しかし、耐久性と選択率の向上が課題で、特に光触媒の高効率化にはC3N4からRu錯体への電子(e)移動の促進が必要となっていた。

 今回、尿素を熱分解して得られるシート状C3N4が、ホスフォン酸基がRu錯体を強固に吸着できることを発見した。これにより、C3N4からRu錯体への効率的な電子移動が実現し、その結果CO2光還元反応の高効率化に成功した。

 光触媒の合成条件、およびCO2光還元の反応条件を詳しく検討した結果、CO2溶解度の低い水中でも高い光触媒活性が得られることが分かった。触媒耐久性を示すターンオーバー数は従来の660から2090に向上し、CO2還元の選択率は従来の75%から最大99%に達した。これらの値は、これまで報告されてきた類似の光触媒系を大きく超え、世界最高値という。

 今回の研究成果は、地球温暖化の主因であるCO2を常温常圧下で有用な化学物質に変換できる可能性を示した。組み合わせる錯体を変えることで、化学燃料として価値の高い一酸化炭素を高い選択率で得ることも可能になる。また、C3N4は炭素や窒素を含む安価で単純な有機物から簡単に合成できる。

 大阪市立大学、名古屋大学との共同研究。また、研究の一部は、日本学術振興会・科学研究費補助金・若手研究A「窒化炭素系半導体と金属錯体を融合した二酸化炭素固定化光触媒の創出」、新学術領域研究「複合アニオン化合物の新規化学物理機能の創出」、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)「太陽光の化学エネルギーへの変換を可能にする分子技術の確立」の助成を受けた。研究成果は、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie, International Edition」オンライン版に2017年4月7日掲載された。