東北大学は2017年6月1日、クロム酸化物の反強磁性スピンの向きの反転に必要な電界の大きさを、従来から2桁低減する技術を開発したと発表した(東北大学のニュースリリース科学技術振興機構(JST)のニュースリリース)。この研究成果を磁気メモリーやハードディスクドライブ(HDD)などに適用すると、漂遊磁界を抑制した高記録密度化が可能になり、書き込み時のジュール発熱の抑制が低消費電力化につながるとする。

■クロム酸化物の電気磁気効果を用いた反強磁性スピンの反転と強磁性体への転写の模式図
■クロム酸化物の電気磁気効果を用いた反強磁性スピンの反転と強磁性体への転写の模式図
(図:東北大学のニュースリリースより)
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 磁気メモリーやHDDに代表される情報記録デバイスは、コバルト(Co)や鉄(Fe)などの強磁性体からなる記録層に、電流(スピントランスファートルク)や磁界でデジタル情報(磁化の反転領域)を記録する方法が用いられる。しかし、これらは強磁性体磁化の電流駆動による磁化反転を利用するため、電流によるジュール発熱に起因した電力損失が大きな課題だった。また、漂遊磁界の問題が高記録密度化への壁となっていた。

 東北大学では、これらの課題の解決方法としてクロム酸化物反強磁性体を情報の記録(記憶)層に用いる手法に着目。クロム酸化物は、電界と磁界の同時印加で反強磁性スピンの向きを制御できる性質を持つ。隣り合うスピンが反対方向を向いているため強磁性体のような磁化信号は得られない反強磁性スピンであるが、Coなどの強磁性体をヘテロ接合すると交換結合と呼ぶ磁気的な結合が生じ、反強磁性スピンの向きが強磁性体のスピンの向きに転写されて磁化信号として読み取れるようになる。