直径1.4mの実証機
直径1.4mの実証機
高さは約14m(出所:日経BP)
[画像のクリックで拡大表示]
実用機の構想
実用機の構想
(出所:Wave Energy Technology)
[画像のクリックで拡大表示]
船のスクリューのようなスラスター(下の左右に見える)
船のスクリューのようなスラスター(下の左右に見える)
波で位置が動いても、自動で元の位置に戻る。実証機のもの(出所:日経BP)
[画像のクリックで拡大表示]

 波力発電を手がけるWave Energy Technology(東京都港区)は5月23日、神戸市新港(神戸市中央区)において、実証試験の概要と結果を公開するとともに、実用化の計画を明らかにした。

 波力発電は、波が上下に動く振動を利用して発電する方式の再生可能エネルギーである。世界各国で長年、研究開発に取り組まれているが、発電設備の安定性や信頼性、コスト、設置に伴う環境汚染といった課題が解決されず、大規模な商用運転の例はない。

 同社は今回、こうした課題を解決できる技術を開発し、神戸市沖の海洋で実証試験した結果、性能や安全性、信頼性などで実用化の目処がついたという。

 2017年中にも、日本で波力発電プロジェクトの立ち上げを後押しする方針で、数年内に実用機が稼働する可能性が出てきたとする。

 同社は、ロイヤリティ(権利の利用料)関連を中心とする事業モデルを構想している。

 このため、地方自治体や企業が事業主体となる波力発電プロジェクトをサポートしていく。しかし、最初のプロジェクトについては、事業化までに要する期間が長くなることも考えられるため、同社が主体となって立ち上げる可能性もあるという。

 開発した波力発電システムは、浮遊式である。海底にアンカーを打ち込むといった、海洋環境を損傷するような設置手法を採用していない。これによって、課題の一つだった環境汚染を防げるとする。撤去する際も、浮遊したまま船で曳航して回収するため、残置物は生じない。

 波によって流されることを防ぎ、海洋での設置位置を維持できる仕組みを導入した。スラスターと呼ばれる船舶用の推進システムを応用した。GPS(全地球測位システム)を使ってリアルタイムで位置を把握し、波を受けて位置が動いても、自動で元の位置に戻る。

 波力発電システム全体は、円筒状の構造となっている。波を受けても姿勢を維持するために、円盤のような平板状の構造が回転する姿勢制御機構(ジャイロ)を採用している。

 波を使った発電は、以下のプロセスとなっている。

 浮きのような部材(フロート)が、波の動きに合わせて海面で上下に動く。この部材は、長い棒状の部材に串刺しになるように固定されており、海面に対して垂直方向に上下する。この上下の運動エネルギーを、ギアで回転エネルギーに変換し、発電機を駆動する。発電機には、フライホイールを活用している。

 ギアを駆動し続けるには、磨耗を防ぐために潤滑油が必要になる。ここで油を使うと、補給が必要となることに加え、環境汚染への影響も考慮して、水を使うことにした。

 海水をそのまま使うと、塩などによってギアの故障につながる。そこで、脱塩して淡水を作り、ギアに供給する仕組みとした。これも自動で制御している。

 浮きのような部材を中心とする上下運動のユニットの上に、ギアや発電機などで構成する発電ユニットが載っている。位置や姿勢の制御ユニットは、この二つのユニットの下に置かれ、海中に位置する。

 課題の一つだったコストについては、浮遊式の採用により海中の工事が不要になったこと、海中に沈む位置・姿勢の制御ユニットの筺体をコンクリート製としたこと、他のユニットも簡素な構造としたことによって、初期投資を抑えた。

 さらに、自動制御や遠隔監視・制御を多く導入したことで、定期点検時など以外は基本的に無人で運用できるようにしたことで、O&M(運用・保守)コストも下げた。