北海道大学と日立製作所は2016年5月20日、動体追跡照射とスポットスキャニングを適用した北海道大学病院の陽子線治療システムにおいて、2つの新しい治療技術の臨床適用を本格的に始めたと発表した(ニュースリリース)。強度変調陽子線治療(IMPT:Intensity Modulated Proton Therapy)と、治療室コーンビームCTである。

 強度変調陽子線治療は、X線による「強度変調放射線治療(IMRT)」の陽子線版。陽子線を複数方向から照射し、その強度分布を制御することで、病巣の形が複雑な場合や正常組織が隣接しているような場合でも線量を病巣に集中。正常組織への線量を低減できる。

 今回、日立の陽子線治療計画システムを使って、陽子線スキャニングビームを用いた強度変調照射を実現。呼吸などで動く腫瘍に対しても、正常組織を守れるようにした。陽子線の飛程誤差やセットアップ誤差の影響を受けにくい線量分布を作れる「ロバスト最適化技術」を組み合わせ、線量集中性を高く保ちつつ、動きにも強い分布形成を可能にした。

 こうした治療法について、2015年8月に臨床適用を始め、現在までに前立腺がんや肝臓がん、頭頸部がん、小児がんの治療に適用した。今後、学会ガイドラインの治療方針に沿った上で適応部位を拡大予定という。

 北大と日立はこれに加え、回転ガントリーを搭載したコーンビームCTシステムを開発。患者の体内の状態を、治療直前に3次元で正確に撮像できるようにし、陽子線の照射位置決め精度を高められるようにした。2015年3月に医療機器としての製造販売承認を得ており、同年10月に臨床適用を開始した。

 コーンビームCTシステムでは、動体追跡技術を適用しない部位の治療においても、高精度の位置決めが可能となる。現在までに、20人の患者に対して同システムを使った治療を実施済み。