グローバルな規模で太陽光や風力などの再生可能エネルギーへのエネルギー転換が可能か否かの論争が、世界中で起こっている。

 そんな中、エネルギーシステムに関する調査研究の結果を数百件集め、再エネ電源を100%とするエネルギー供給を実現するうえでの障壁は技術と経済の両面で根本的に存在せず、「再エネ100%の実現は可能」と結論付けた論文が5月11日、発表された。

 事の発端は、2017年9月にオーストラリアの学会誌「リニューアブル・アンド・サステナブル・エネルギー・レビュー」で発表された論文「立証責任:再生可能な電力システムの実現可能性の包括的な検証」である。

 同論文においてベンジャミン・ハード氏が率いるオーストラリアの科学者グループは、再エネ資源に基づく包括的なエネルギー供給の実現可能性に対して疑問を投げかけていた。

 これに対し、エネルギー転換は可能と主張する側の学者らが世界各地から集まり、反証となる論文「立証責任への回答:100%再生可能な電力システムの実現可能性の包括的な検証」を同じ学会誌で発表したのである。

 反証となる論文には、ドイツのカールスルーエ工科大学(KIT)、南アフリカ科学産業研究評議会(CSIR)、フィンランドのラッペーンランタ大学、オランダのデルフト工科大学、デンマークのオールボー大学らの科学者チームが共同で寄稿した。

 同チームによると、数百件もの調査や研究の見直しや分析により、ハード氏らが「立証責任」論文で提起した論拠のそれぞれに対して、反証として数多くの証拠が得られたという。

 ハード氏らは、太陽光発電所や風力発電所を建設するスペースの制約、日照や風がない状態といった課題の解決が困難、不安定な発電による停電の頻発といった電力網への悪影響などを論点として提起していた。

 これに対し、反証論文の筆頭著者でありKITで将来のエネルギーシステムなどの研究に携わるトム・ブラウン氏は、「ハード氏らが提起した疑問には意味があるものもいくつかある。しかし、彼らが提起した質問のすべてに対して、現在利用可能な技術に基づく解決策がある点に注目することが重要だ」と述べている。

 ブラウン氏の見解によると、風も日照もない場合には電力の融通、水力発電やバイオマス・バイオガス発電、蓄電池などによるバックアップが可能としている。それらでは不十分だとしても、風力や太陽光の余剰電力で水素や合成ガスを生成し、必要に応じて発電所の燃料として供給することで対応できるという。

 反証論文の共同著者でラッペーンランタ大学のクリスチャン・ベイヤー氏は、「さらに、こういった技術的な解決策は経済面でもまったく問題なく利用できる。特に、風力や太陽光のコストが急速に下落している効果を考慮すれば明らかだ」と付け加えている。

 また、オールボー大学のブライアン・ヴァド・マティーセン氏は、「100%の再エネ・システムは不可能だとする頑固な神話がいくつかあるが、私達の論文では最新の科学的データを使用してそのような神話を1つずつ論証している」と自信を示す。

 現状、まだ多くの企業や国、自治体が化石燃料に基づくエネルギー供給に依存していることは確かだ。

 一方、「RE100」や「SDGs」への取り組みが、近年急速に注目を浴びつつある。

 米アップルのように再エネ100%を既に達成した企業や自治体が世界中で増加してくれば、議論の対象が「再エネ100%は実現可能か」から「再エネ100%はいつ実現可能か」となる可能性もありそうだ(関連記事1)(関連記事2)。