巨大な圧縮空気タンクの建設費は
この施設は、伊豆半島南端の三筋山山頂付近に建設された東京電力の東伊豆風力発電所に隣接する。静岡県の伊豆稲取駅から4kmほど山中に入った所である。NEDOは、天候に左右されやすい風力発電の出力を、正確な気象予測(前日抑制)や周辺の発電設備の稼働状況を参照(15~30分前抑制)することで細かく予測し、出力変動による電力系統への影響を最小にする技術を研究している。今回の施設はその研究プロジェクト(「電力系統出力変動対応技術研究開発事業」)の一環である。
山あいを切り開いた約1500m2の敷地に、発電・充電ユニットと空気タンクが立ち並んでいた。発電・充電ユニットは空気圧縮機/膨張機、蓄熱槽などからなり、出力は1000kW(500kWが2基)である。空気タンクは直径2mで高さ11m、最高圧力は0.93MPa(約10気圧)。この空気タンクが52本あり、そこに蓄えられるエネルギー容量は500kWhだという。
高さ11mの空気タンクを真下から見上げた感じはとても大きく、ちょとした化学プラントのようだ。しかしタンク52本で、容量はわずか500kWhしかない。電気自動車(30kWh)の17台分にすぎない。圧縮空気がいかにエネルギー密度が低いか、逆にLiイオン2次電池がいかに高いかがよくわかる。
風力発電用のクリーンな技術
いかに中身が空洞のタンクとは言え、この大きさを見ると、本当にLiイオン電池にコストで勝てるのだろうかと心配になった。NEDOは過去3年間の事業費を165億円と言っているが、これは親プロジェクトの「電力系統出力変動対応技術研究開発事業」全体の費用。個別の施設の建設費は明らかにしなかった。
一方、ライバルのLiイオン2次電池は、コストダウンが急速に進んでいる。最近では、新車向けのセル価格で1kWh当たり1万円前後が目標価格になっている。将来、この施設のような定置型エネルギー貯蔵装置には、劣化などの問題はあるとはいえ、電気自動車の使用済み電池の再利用が十分に考えられる。コストは相当下がるだろう。
となると、圧縮空気エネルギー貯蔵は、クリーンで持続可能な技術であること以外に、あまりメリットが浮かばない。ちなみに今回の施設は実証試験用の小型システムだそうで、実際に東伊豆風力発電所(1万8370kW)の出力調整に使うには、さらに何倍もの規模が必要なのだという。