東京大学は2017年4月26日、固体表面上の個々の原子の電気陰性度を測定する新しい手法を発見したと発表した。原子を1個ずつ観察できる原子間力顕微鏡(AFM)を用いることで、個々の原子の電気陰性度を定量化することに成功し、例えば同一のシリコン原子であっても、そのシリコン原子が周囲とどのように結合しているか、どの元素と結合しているかによって電気陰性度も変化することを実証した。

共有結合(左)は、同種(シリコン(Si))原子間の結合で電子が対等に共有される。イオン結合(右)は、異種(ナトリウム(Na)と塩素(Cl))原子間の結合で電子が片方の原子に完全に移行する。極性共有結合(中央)は、異種(中央、Siと酸素(O))原子間の結合で電子が共有されつつ部分的に片方の原子に偏る。2つの元素間の電気陰性度差が大きくなるほどイオン性は大きくなる(図:東京大学のニュースリリースより)
共有結合(左)は、同種(シリコン(Si))原子間の結合で電子が対等に共有される。イオン結合(右)は、異種(ナトリウム(Na)と塩素(Cl))原子間の結合で電子が片方の原子に完全に移行する。極性共有結合(中央)は、異種(中央、Siと酸素(O))原子間の結合で電子が共有されつつ部分的に片方の原子に偏る。2つの元素間の電気陰性度差が大きくなるほどイオン性は大きくなる(図:東京大学のニュースリリースより)
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 2つの原子が化学結合を形成する際、電子を互いに均等に共有する場合は「共有結合」、片方の原子からもう片方の原子へ完全に電子が移行する場合は「イオン結合」となる。一般的には、酸化物などのほとんどの物質はこれらの中間である「極性共有結合」を取る。例えば、シリコン-シリコン原子間では共有結合となるが、シリコン-酸素原子間では電子が酸素側に大きく偏るため非常に強い極性共有結合となる。

 このような極性共有結合において、どの元素がどれだけ電子を引き寄せるかの強さの尺度は「電気陰性度」で示される。電気陰性度は、1932年にライナス・ポーリング(Linus Pauling)によって初めて具体的な式が与えられた。これまで電気陰性度は主にガスの反応熱のデータをもとに周期表の各元素に対して実験的に1つの値が定められていたが、これは多数の原子の集団平均的な量であり、ガス状の軽い分子など熱化学的手法が適用できる試料しか扱えなかった。

 今回、化学の重要な基本概念である電気陰性度をAFMによって原子スケールで測定できることを発見した。シリコン表面に酸素を吸着させて測定した結果、酸素原子上で大きな結合エネルギーが働くことが分かった。針の材質はシリコンのため、針先端のシリコン原子と表面の酸素原子のあいだにシリコン-酸素間の極性共有結合が形成されたと示唆される。同様の測定を表面のシリコン原子上で行うと、シリコン-シリコン間に形成する共有結合エネルギーを見積もることができる。