ルブレン単結晶膜へのドーピング手法
ルブレン単結晶膜へのドーピング手法
ルブレン分子(左)を蒸着して結晶成長させ、同時に開口1000分の1の回転円板シャッターを用いた極超低速蒸着によって1秒当たり10億分の1ナノメータでドーパント分子(右)を蒸着させた(出所:分子科学研究所)
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ドーピング有機単結晶表面の原子間力顕微鏡像
ドーピング有機単結晶表面の原子間力顕微鏡像
(出所:分子科学研究所)
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1周期100秒でゆっくり変化する交流磁場(青カーブ)下で観測された、磁場に同期したホール起電圧(赤カーブ)
1周期100秒でゆっくり変化する交流磁場(青カーブ)下で観測された、磁場に同期したホール起電圧(赤カーブ)
(出所:分子科学研究所)
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有機単結晶のドーピング効率(赤カーブ)と、同物質のアモルファス膜(青カーブ)との比較
有機単結晶のドーピング効率(赤カーブ)と、同物質のアモルファス膜(青カーブ)との比較
(出所:分子科学研究所)
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 分子科学研究所は4月18日、有機単結晶をppm(百万分の1)レベルでドーピングし、ホール効果を観測することに成功したと発表した。この成果は、シリコン単結晶ウェハーを用いたエレクトロニクスと同様、有機半導体単結晶ウェハーを用いた「有機エレクトロニクス」という新しい分野の扉を開き、高性能の有機単結晶太陽電池や有機単結晶ELなどの有機単結晶デバイスが作製できるようになるという。

 シリコンに代表される無機半導体は、ドーピング(微量の不純物添加)によってn型化(電子が電気伝導を担う)、p型化(正孔が電気伝導を担う)できるpn制御技術によって半導体接合を形成し、LSI(集積回路)、LED(発光ダイオード)、太陽電池などのデバイスを作製している。しかし、有機半導体には、単結晶にドーピングする技術がなく、単結晶有機エレクトロニクス分野を確立できなかった。

 現在の有機デバイスは、アモルファスや多結晶の有機薄膜が用いられ、ドーピング技術も応用されている。これまで研究グループは、ppmオーダーのドーピングによる有機半導体薄膜のpn制御技術を確立し、ドーピングのみで高効率の有機太陽電池が作製できることを示した。また、ルブレンなどのバンド伝導を示す有機単結晶は、ホール効果測定が可能であることが分かって、ドーピングの本質をホール効果測定によって解明できる可能性があった。

 研究グループは今回、ppmレベルの化学ドーピングしたルブレン単結晶のホール効果の観測に成功した。ルブレン分子を1秒あたり1000分の1nmの低速で蒸着することで、ルブレン単結晶基板上に結晶成長させた(ホモエピタキシャル成長)。同時に、1秒あたり10億分の1nm(10-9nm)の、開口1000分の1の回転円板シャッターを用いた極超低速蒸着技術を用いてアクセプター性ドーパント(塩化鉄:Fe2Cl6)を蒸着し、1ppmに達する極低濃度でルブレン単結晶膜にドーピングした。

 ホール効果測定用セルを用い、1周期100秒でゆっくり変化する1テスラの交流磁場下で磁場に同期したホール起電圧を観測し、ドーピング有機単結晶のホール効果を確認した。有機単結晶のドーピング効率(ドーパントの分子100個に対して何個の正孔が発生するか)は24%と、同じ物質のアモルファス膜の1%に比べて非常に大きく、単結晶の高性能を示す結果が得られた。また、正孔の移動がドーパントによる散乱によって低下することを直接観測した。

 今後、有機単結晶の研究を発展させることで、これまでの有機薄膜では研究できなかった、ドーパントの存在状態、キャリア発生、キャリア散乱などのドーピングの本質的なメカニズムが明らかになり、ドーピング有機単結晶を用いた有機単結晶デバイスが作製できるようになると考えられる。

 自然科学研究機構分子科学研究所と、豊橋技術科学大学、大阪府立大学との共同研究。科研費基盤研究およびNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のエネルギー・環境新技術先導プログラムの一環として行われ、研究成果はドイツの材料科学の専門誌「Advanced Materials」オンライン版に2017年4月18日掲載された。