「20アンペア以下の仮登録の受け付けは、3月31日(木)の事前受付期間をもちまして終了します」

 2016年4月1日の電力自由化に合わせて、家庭向け電力小売りに参入した旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)。ところが、自由化を目前に控えた3月下旬、同社のホームページに、こんな注意書きが掲載された。

 電気事業は利益率が低い。しかも、大手電力会社が従来から提供している規制料金は、「ナショナル・ミニマム(国が保障すべき最低生活水準)」の考え方を導入している。3段階からなる従量料金の第1段階が安く抑えられているのは、そのためだ。使用電力量の低い世帯は、アンペア契約数も小さい。そこで、新規参入事業者の多くは、利益を出しにくい20アンペア以下の契約の設定をしていない。第1段階の従量料金を規制料金より割高にしているケースも多い。

 新規参入事業者が「クリームスキミング(公共サービスに新規参入する事業者が収益性の高い分野のみにサービスを集中させること)を狙っている」と言われるのは、使用電力量が多い世帯だけがお得になるプランを展開しているためだ。そんな中、HISなど知名度向上を狙う一部の事業者だけが、20アンペアなど使用量の少ない世帯向けのプランを展開していた。

HISの想定外

 HISは今回の対応を「想定を超える申し込みがあったため、受付を終了することにした」と説明している。他社にない料金プランだったことから、契約者が殺到し、利益率が非常に薄い、場合によっては逆ざやになりかねない20アンペア契約を継続するのが難しくなったことが伺える。

 HISの料金プランは、「大手電力会社の料金から一律5%引き」とシンプルでわかりやすいものだ。同社は当初から、店頭でパッケージ旅行を購入する一定以上の所得があり、使用電力量も大きな世帯を電力小売りのメーンターゲットに据えていた。だからこそ、店頭の営業部員が説明しやすいシンプルな料金体系にしていたわけだ。

 だが、20アンペア契約に殺到したのは、自ら積極的に情報収集する「アーリーアダプター」層であり、店頭ではなくインターネット経由での契約申し込みだったのだろう。HISが想定していなかった顧客の増加により、早期の受付終了となったとみられる。

 電力自由化の世間での認知度は決して高くない。だが、一部の消費者が動き出した証左と言えるだろう。