バイオテクノロジーの進化により、以前は諦めるしかなかった、怪我や病気による体の機能不全を克服・予防できる医療技術が生まれている。その中で、重要な役割を果たすのが、体や臓器をモニターするセンサーや体の機能の一部を補完する医療デバイスである。

 こうした医療デバイスに関して、奈良先端科学技術大学院大学教授の太田 淳氏が、「DAシンポジウム2016:システムとLSIの設計技術」(2016年9月14日~16日)において招待講演した。この講演では、医療デバイスを実現する半導体の技術の概要と応用例を紹介した。また、医療デバイスの実用化に関する日本と海外の温度差を指摘して、警鐘を鳴らした。

 糖尿病の予防や治療では、現在は病院等に患者が出向いて検査装置を使った検査が行われている。今後は、半導体技術を使ってコンタクトレンズ型の血糖値センサーを作り、涙の成分のモニター結果をスマートフォンを介して病院と共有し、通常の生活を送りながら継続的な診断を受けることが可能になる。

図1●半導体を使った医療デバイスの種類と用途。講演者のスライド。
図1●半導体を使った医療デバイスの種類と用途。講演者のスライド。

 同氏によれば、生体から情報を取り出すセンサーデバイスは、図1のように、4つに大別できる。(1)生体サンプルを取り出して観測する「外界型」。(2)逆に装置全体を封入して生体に入れて観測する「完全密封型」。(3)体や粘膜の表面に貼り付けて観測する「ディッシュ型」。(4)体の組織内に埋め込んで観測する「完全埋植型」である。

 このうち、(3)と(4)は生体にセンサーデバイスが一定時間以上接触しているため、生体情報の読み取りだけでなく、読み取った信号を外部で処理し体内に戻すことにより継続的な治療を行うことが可能になる。今回の講演では、ディッシュ型や完全埋植型のデバイスを中心に話が進んだ。

図2●生体信号のセンシングデバイス。講演者のスライド。
図2●生体信号のセンシングデバイス。講演者のスライド。

 半導体デバイスの生体への応用としては、ICやイメージセンサーを詰め込んだカプセル内視鏡がすぐに思い浮かぶ。今回の講演では、より半導体技術を活用した例として、図2のようなセンサーが紹介された。NMOSトランジスタのゲート部にイオン感応膜を付けた構造のISFET(Ion Sensitive FET)を観測したい生体組織に直接接触させて、電圧変化を読み取るセンサーである。

 このセンサー素子はシンプルな構造のため、微細化が可能である。これで例えば、細胞の表面の一部や遺伝子の一部などを精密にセンシングできる。また、センサーにつながる周辺回路の高機能化などに、これまでに培ってきた半導体の設計・製造技術が活かすことが可能である。