京都大学は2017年4月12日、光吸収によって量子ホール系物質の絶縁性が改善されることを発見し、光による量子ホール状態の制御を実現したと発表した(ニュースリリース)。今回の発見は、トポロジカルな性質を光によって引き出すことを可能にしたもので、物質のトポロジカルな性質の光制御への第一歩になるという。

京大は今回、光吸収によって量子ホール系物質の絶縁性が改善されることを発見し、光による量子ホール状態の制御を実現した
京大は今回、光吸収によって量子ホール系物質の絶縁性が改善されることを発見し、光による量子ホール状態の制御を実現した
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 量子ホール効果とは、電子を平面に閉じ込めた2次元電子系物質のホール伝導率が物理定数で決まる値の整数倍に量子化される現象のこと。この現象の鍵となるのは物質の絶縁性であり、良い絶縁体であればその物質の端のみに伝導状態が生まれて理想的な量子ホール状態を観察できる。このような物質はトポロジカル絶縁体と呼ばれ、省電力電子デバイスやスピントロニクス、量子コンピューターなどへの応用を見込める新たな物質群として近年盛んに研究されている。

 しかし、トポロジカルな性質は物質の絶縁性が低いと消失してしまうため、いかに物質の絶縁性を高めるかが重要となる。量子ホール系の場合は、これまでより良質な結晶を作成し、極低温で高磁場をかけることで絶縁性を高めていた。これは、電子の平衡状態に限れば、絶縁性を高める唯一の方法だった。

 研究グループは今回、典型的な量子ホール効果を示すヒ化ガリウム(GaAs)の2次元電子系に対して光でエネルギーを与え(光励起)、電気伝導特性がどのように変化するかを調べた。実験開始時点の試料の温度と磁場の強さでは平衡状態における絶縁性は低く、量子ホール効果が消失しかかっている状況を作った上で実験を行った。特定の電子状態を作り出すため、光励起にはテラヘルツ波と呼ばれる1012Hz程度の振動数を持つパルス光を用いた。