神戸大学と大阪大学らの研究グループは4月10日、水素生成量が従来に比べて1桁増える光触媒を開発した、と発表した。
触媒の粒子の配列を3次元的に制御し、電子と正孔(電子が抜けた孔)を空間的に引き離す「メソ結晶化技術」により、これまで1%に満たなかったエネルギー変換効率が約7%に向上した。
光触媒に光を照射すると、触媒表面に電子と正孔が生成し、この電子が水の水素イオンを還元することで水素が得られる。従来の光触媒は、生成した電子と正孔のほとんどが光触媒表面で再結合して消失してしまうため、光エネルギー変換効率が伸び悩んでいた。
今回、メソ結晶に存在するナノメートルスケールの空間を利用した新合成法「トポタクティックエピタキシャル成長」を開発した。テンプレートとなる酸化チタン(TiO2)メソ結晶から、結晶構造の異なるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)メソ結晶を、1段階の水熱反応で容易に合成することに成功した。
さらに、反応時間を長くすることで、表面近くの粒子だけ結晶の向きを揃えたまま大きく成長させることを見出した。これまでメソ結晶の合成手順は複雑な場合が多く、形状の制御も容易ではなかった。
このSrTiO3メソ結晶に助触媒を付着させて水中で紫外光を照射したところ、約7%という高い光エネルギー変換効率で反応が進行することがわかった。1つ1つの粒子を蛍光顕微鏡で観察したところ、生成した電子は表面の比較的大きなナノ結晶に集まっていた。このことから、紫外線の照射によって生成された電子は、メソ結晶内部のナノ粒子間を効率よく移動して表面の大きなナノ結晶に集まり、高い効率で水素イオンを還元し水素を生成することがわかった。
今回の研究で見出されたメソ結晶の高い光触媒活性は「メソ結晶の規則的な構造をあえて崩す」という逆転の発想から産み出されたもので、新しい材料設計指針の開拓につながると期待される。
また、SrTiO3は立方晶であるため、分子吸着や反応のしやすさの点で結晶面による違いは存在しない。したがって、ビルディングブロックであるナノ結晶の大きさと空間配置を制御するだけで、既存システムの光エネルギー変換効率を大きく向上できる可能性があるという。
今後、メソ結晶化技術を、可視光でも応答するタイプの光触媒に応用することで、太陽光でのエネルギー変換の高効率化を目指す。また、同研究で対象としたSrTiO3を含むペロブスカイト型金属酸化物は、エレクトロニクス素子の基幹物質であることから、幅広い分野への応用が期待される。
今回の研究成果は、ドイツ化学誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に2017年4月6日(現地時間)公開された。