「あなたは将来、起業するつもりがありますか?」――。慶応義塾大学は2016年、医学部を置く信濃町キャンパスでこんなアンケート調査を実施した。

 慶応大学医学部が2017年3月26日に決勝大会を開催した「健康医療ベンチャー大賞」(関連記事1同2同3)。シンポジウム企画にモデレーターとして登壇した同学部教授の坪田一男氏は、冒頭のアンケートの調査結果を紹介した。「はい」と答えた割合は、11%にとどまったという。「米国のMITやハーバード大学では学生の90%以上が、チャンスがあれば起業したいというマインドを持っている」と嘆いた。

シンポジウムの一コマ
シンポジウムの一コマ
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 坪田氏は、健康医療ベンチャー大賞を主催した慶応大学医学部「知財・産業連携タスクフォース」の長を務める。同学部が目指す“ベンチャー100社創出”の旗振り役だ。「大学の研究は外(社会)に出し、商品化につなげることで初めてイノベーションを起こせる」(同氏)とし、健康医療ベンチャー大賞の立ち上げの背景を語った。

 その1つに挙げたのが、2015年6月の学校教育法の改正。大学は研究と教育に加え「その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする」と、イノベーション創出の役割がうたわれた。「イノベーションを起こせないなら大学ではない、という流れに変わってきた」と坪田氏は表現する。

 国立4大学のベンチャー育成などの取り組みに、国が1000億円規模の資金を用意しているという報道を示しながら、「我々も何とかしければいけない」と危機感をにじませた。「学生や教員には臨床家、研究者、教員のほかに(起業という)第4の道があると知ってもらいたい。こうした人材の輩出は、社会が大学に求めていることでもある」(坪田氏)。