東北大学は2017年3月17日、シンガポール南洋理工大学、日本原子力研究開発機構と共同で「強磁性体(磁石)薄膜中の磁化運動に影響を与える散乱機構」を解明したと発表した(ニュースリリース)。「モーショナル・ナローイング(運動による線幅の先鋭化)」と呼ばれる機構が散乱の性質を決める主要な一因であることを示し、この機構が強磁性体中の磁化運動に影響を及ぼすことを明らかにした。不揮発性磁気メモリー素子の動作の理解と高性能化につながり、磁性材料系の開発が加速すると期待される。

CoFeB/MgOの強磁性共鳴スペクトル測定結果。CoFeB膜厚が2.6nmの試料ではスペクトル線幅は温度にほとんど依存しないが、1.5nmの試料では温度低下によって線幅が大きく広がる(図:東北大学のニュースリリースより)
CoFeB/MgOの強磁性共鳴スペクトル測定結果。CoFeB膜厚が2.6nmの試料ではスペクトル線幅は温度にほとんど依存しないが、1.5nmの試料では温度低下によって線幅が大きく広がる(図:東北大学のニュースリリースより)
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 共同研究では、酸化マグネシウム(MgO)と金属強磁性体であるコバルト鉄ボロン(CoFeB)の積層構造を試料に用いた。CoFeB/MgO接合の強磁性共鳴スペクトルのCoFeB膜厚依存性(1.0nm~2.6nm)と温度依存性(−269~+7℃)を調べた結果、膜厚の厚い試料ではスペクトル線幅が温度にほとんど依存せず、薄い試料では温度低下に伴って強磁性体共鳴線幅が増大した。これと同様の振る舞いが核磁気共鳴で観測されており、モーショナル・ナローイングと呼ばれる機構で説明される。今回の実験結果も、この機構で説明できることが分かった。