説明会に臨む室町氏
説明会に臨む室町氏
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 「株主資本が1500億円になる見通しの中、ばん回を図りたいという思いでいたところ、キヤノンから素晴らしい提案があった」――。東芝が2016年3月18日に東京都内で開催した2016年度事業計画説明会。登壇した同社 代表執行役社長の室町正志氏は、同月17日に発表した東芝メディカルシステムズのキヤノンへの売却のスキームを問われてこう答えた。

 3月17日の発表で明らかになったのは、キヤノンが東芝メディカルの子会社化に関するクリアランスを得るまでの間、特別目的会社「MSホールディング」に東芝メディカルの議決権を移すというスキームだ(関連記事1)。2015年度決算への売却益計上を可能とする“裏技”ともいえそうな手法で、約6655億円の売却金額は17日にキヤノンから東芝へ「入金済み」(室町氏)。

 東芝とキヤノンの担当法律事務所による精査の上で「こうしたスキームを考えて頂いた。売却益の計上時期は精査中だが、ぜひとも今年度(2015年度)に計上できるよう進められれば幸いだ」(同氏)。

 2015年度決算への計上を重視する理由については、同年度末の株主資本(自己資本)が1500億円、自己資本比率が2.6%にまで落ち込む見通しの中、「何か(新たな)リスクが顕在化した場合には株主資本がマイナスに転じるリスクもある。できるだけ今期中に増強しておきたい」(室町氏)と説明した。

 東芝メディカル売却により、東芝はグループ人員を1万人(国内5600人、海外4400人)削減する形。ヘルスケア社は廃止し、「ライフサイエンス事業統括部」を新設する。

 今回の売却手法をめぐっては、富士フイルムホールディングスが3月16日、キヤノンに独占交渉権を与えたことに関する「質問状」を東芝に送付するという異例の事態を招いた(関連記事2)。富士フイルムは、キヤノンによる東芝メディカル買収が発表された翌17日、「今回の案件は、時間稼ぎを狙った極めてトリッキーなやり方との印象を受ける。もし、このようなことが認められるならば、競争法が形骸化するのではないかと懸念する。オープン・フェア・クリアな企業行動方針をもつ我々にとっては、考えられないやり方だ」と強い非難のコメントを出している。