化学品・電子材料商社のKISCOは、パリレンコーティング事業で最大手の米Specialty Coating Systems社(SCS社)を2015年末に買収した(PDF形式の発表資料)。パリレン樹脂(パラキシリレン樹脂)のコーティング膜は、プリント基板や電子部品の防錆、絶縁、腐食性ガスや化学薬品からの保護などに使われている。今後は電子機器に加えて、医療機器や自動車分野への用途拡大が期待されている。SCS社を買収して攻勢をかけるKISCOの吉本泰雄氏(diX事業部長)に、買収の狙いや今後の事業戦略について聞いた。(聞き手は、田中 直樹)

――パリレンコーティングによる保護・絶縁膜の特徴は。

KISCO diX事業部長の吉本泰雄氏
KISCO diX事業部長の吉本泰雄氏
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 プリント基板や電子部品の防錆、絶縁、腐食性ガスや化学薬品からの保護のために、樹脂のコーティング膜が使われています。一般には、シリコーン樹脂やアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂といった液状の樹脂材料を塗布して形成します。しかし、塗布対象の部品の形状に凹凸などがあると、隙間に樹脂材料が入らずにピンホールができてしまったり、凸部分で塗膜が薄くなってリークの原因になったりするという課題がありました。

 パリレン樹脂のコーティング膜を使うと、こうした課題を解決できます。真空成膜プロセスによって、塗布対象物の全表面を、極めて薄い樹脂膜で均一に覆うからです。最近は、電子機器内の基板や部品の実装における寸法の余裕度が小さくなっており、コーティング膜を薄くしたいという要求が増えています。こうしたニーズに応えることもできます。

 また、パリレン樹脂のコーティング膜は化学的に安定しており、酸やアルカリ、有機溶剤などのほとんどの化学薬品に対して強い耐性を持っています。屋外で使用する自動車用センサーのように、過酷な環境下で使われる機器や部品の保護膜として有効です。さらに、化学的に安定なため、生体内で使用できることも特徴です。実際に、体内埋め込み型の医療器具や、手術や治療に用いるディスポーザル(使い切り)の器具に使用されています。

――KISCOのパリレンコーティングの主力事業は、材料販売ですか、それともコーティングサービスですか。

 パリレン樹脂のコーティングサービスが主力事業です。顧客からプリント基板などの塗布対象部品を預かり、自社の設備でパリレン樹脂をコーティングして、顧客に納めるサービスです。

 パリレン樹脂材料は、グループ会社の第三化成で製造しています。このパリレン樹脂の粉を使って、KISCOの設備でコーティングします。まず、パリレン樹脂の粉を気化炉でガスにして、そのガスを分解炉で活性化し、さらに活性化ガスをコーティング室内でポリマー化することによって対象物表面に樹脂皮膜を形成します。

 このように、グループ会社を含めて、材料・製造プロセス・コーティングサービスのすべてを提供できるのが、我々の強みです。