今回開発したペロブスカイト太陽電池の耐久性。未封止状態で10倍の耐久性を持つ
今回開発したペロブスカイト太陽電池の耐久性。未封止状態で10倍の耐久性を持つ
(出所:東京大学)
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 東京大学は3月9日、電子を受け取る能力が高い「リチウムイオン内包フラーレン」を有機半導体に加えることで、空気や水に対してより安定性が高いペロブスカイト太陽電池を開発したと発表した。

 リチウムイオン内包フラーレンの疎水性とリチウム内包フラーレンの抗酸化作用により、従来のペロブスカイト太陽電池より耐久性を10倍向上させたという。

 ペロブスカイト太陽電池は、20%近いエネルギー変換効率を示す一方で、発電層に使われる有機金属ペロブスカイトは水や酸素に対して非常に不安定で耐久性に課題を持つ。しかし、電荷選択層であるホール輸送層に用いられる有機半導体は、ホールを輸送する特性が十分でないため、吸湿性のあるリチウム塩を混ぜたり(ドープする)、酸素を使って電子を引き抜く(ホールをドープする)必要があり、ペロブスカイトとの間で矛盾があった。

 今回、従来のリチウム塩に代わって、リチウムイオン(Li)をフラーレンC60の殻で包んだ新しいリチウム塩(リチウムイオン内包フラーレン、Li@C60)を用いた。リチウムイオン内包フラーレンは、日本のベンチャー企業が開発したもので、Liが疎水性のC60の中にあるため吸湿性が低く、高い電子親和力を持つ。また、電子を引き抜く酸素が不要で、有機半導体spiro-MeOTADから電子を引き抜くことが可能。

 従来のペロブスカイト太陽電池は、未封止であるとリチウム塩を含む有機半導体層が周囲の水を引き寄せ、50時間で動作しなくなる。今回開発したリチウムイオン内包フラーレンを含むペロブスカイト太陽電池は、未封止の素子では約50時間かけてゆっくり変換効率が上がり、最高効率点から約500時間かけて効率が低下することを確認した。最高点でのエネルギー変換効率は15.8%。

 また、封止した素子では、疑似太陽光連続照射1000時間で効率低下10%以内に収まり、ペロブスカイト太陽電池の実用化の目安とされる条件をクリアした。長寿命化を可能とする材料を見出したことにより、実用化に向けた研究が促進されると期待される。

 中国・東北師範大学との共同研究。また、科学研究費補助金・基盤研究(S)「高機能化ナノカーボン創成と革新的エネルギーデバイス開発」の支援を受けた。