18F-BCPP-EFのPET画像
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放射線照射後のがん細胞の18F-BCPP-EFの取り込み増加とがん組織の成長曲線
放射線照射後のがん細胞の18F-BCPP-EFの取り込み増加とがん組織の成長曲線
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ミトコンドリアの活性化がアポトーシスを誘導する仕組み
ミトコンドリアの活性化がアポトーシスを誘導する仕組み
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 浜松ホトニクスと東海大学は2017年3月10日、がんの放射線治療の効果を治療開始後早期にPET検査で判定できる可能性を、動物実験で確認したと発表した。放射線照射量を適切に調節したり、十分な治療効果がない場合は他の治療法に切り替えたりするなど、治療開始後の早い段階でその後の治療方針を検討することにつながる。

 放射線治療の効果判定は、画像診断によることが多い。ただしX線CTやMRIでがん組織の大きさに注目する方法では、画像で縮小が確認できるまでは効果を判定できない。18F-FDGを用いた通常のPET検査でも、照射線量に比例して起こる炎症による18F-FDGの取り込みがおさまり、治療効果を正確に判定できるまでには時間を要する。

 がん組織の一部を針生検で採取し、顕微鏡でアポトーシス頻度を測ることで効果判定を行うという方法もあり得る。ただし侵襲的であるうえに、がん組織のごく一部のサンプルで判定するため誤差を生じる可能性があり、早期の効果判定には適さない。

 研究グループは今回、放射線照射ががん細胞のミトコンドリアを活性化することでアポトーシスを誘導し、がん細胞の増殖を抑える点に着目。がん細胞中のミトコンドリアの活性度に比例して取り込みが増えるPET薬剤「18F-BCPP-EF」を用いたPET検査が、放射線治療の早期効果判定に有用かどうかをマウスを用いた実験で検証した。

 実験では、がん組織にさまざまな線量の放射線を照射した後、18F-BCPP-EFを使ってPETで経時的にミトコンドリアの活性度を測定。並行してがん組織の大きさを測り、ミトコンドリアの活性度とがん細胞の増殖抑制の関連性を検討した。

 この結果、照射線量に比例したミトコンドリアの活性度の増加が、がん細胞の増殖抑制を反映していることを確認した。さらに、がん組織の大きさに変化がない照射後2日目の段階から、18F-BCPP-EF の取り込みが増加していることを確認した。すなわち、放射線治療の効果ががん組織の大きさの変化として現れる前から、がんの治療効果を測定できる可能性を実証した。

 今後は実験を重ねてより詳細なデータを集め、臨床研究に向けた準備を進める。抗がん剤治療や免疫療法、重粒子線治療などへの応用や、さまざまな種類のがん細胞への有効性も検討していく。