慶応義塾大学医学部は2017年2月28日、同学部内科学教室(循環器)が開発し2015年11月23日に公開したスマートフォン向けアプリケーション「Heart & Brain」の提供を2017年1月21日に中止したと発表した(発表資料)。同アプリを用いて実施した研究において、医学部倫理委員会に申請された研究計画と一致しない部分が認められたためという。

 Heart & Brainは、同大学医学部が米Apple社のオープンソースフレームワーク「ResearchKit」を用いて開発したiPhoneアプリ。ヘルスケアデータの収集方法や、不整脈や脳梗塞などの疾病を早期発見する可能性を検討することを目的に、ユーザーから広く情報提供に協力してもらうことを想定して開発した。

 申請された研究計画では、アプリ公開前に慶応義塾大学病院の患者に利用してもらい、事前検討を行った上で一般ユーザーに利用してもらうことを想定していた。ところが実際には、院内での事前検討に先立ってアプリが一般公開され、利用に供されていたことが、臨床研究の点検・評価・改善を担当する医学部・病院生命医科学倫理監視委員会の指摘で判明した。

 医学部倫理委員会はこの旨を、同大学医学部長に2017年1月6日付文書で通知。医学部・病院生命医科学倫理監視委員会と病院ガバナンス委員会で協議した結果、同大学医学部長が2017年1月17日付で研究実施の許可を取り消した。

 Heart & Brainを用いた臨床研究では、研究協力についての同意情報のほか、不整脈や脳梗塞の危険因子の有無に関するアンケート、身体の動きから計測される運動機能評価データ、動悸が起きた時の報告データなどを収集。同アプリを利用したユーザーに「健康上の問題を及ぼすことは一切ない」(慶応義塾大学医学部)としている。

 研究データはあらかじめ匿名化しており、研究実施許可の取り消しを受け、同意情報を含めてユーザーへの不利益が生じないよう対処したという。また、今回の件にかかわる「情報の漏えいや不正利用は確認されていない」(同大学医学部)。

 慶応義塾大学医学部は2017年1月20日、外部の有識者を含む調査委員会設置を決定。原因究明と再発防止策について検討を進めている。調査が終了次第、改めて報告する予定という。