自己組織化の概要
自己組織化の概要
(出所:千葉大学)
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 千葉大学は2月22日、分子の自己組織化を制御する仕組みを解明したと発表した。この知見を応用することで、太陽電池などの有機材料による電子デバイスを低コスト・大面積化できる可能性があるとしている。

 同大学の大学院工学研究科 矢貝史樹准教授を中心とした研究チームが解明した。

 「分子の自己組織化」とは、分子が集合し、自発的に秩序ある構造と、新たな性質を生み出す現象を指す。同じ分子であっても、自己組織化の際に、条件によって異なる構造となる。

 このため、狙っていた機能の分子を設計・合成できたとしても、自己組織化の際に、望んでいない構造になる場合がある。そこで、自己組織化の現象を制御することが、分子材料の研究において重要となっている。

 矢貝准教授らは今回、「多点水素結合」と呼ばれる分子間での相互作用を利用し、半導体性を持つ分子の自己組織化を精密に制御できるようにした。

 多点水素結合は、分子の集合経路の制御に有効な手法である。DNAやRNAの塩基対形成にも利用されている。特定の分子を認識するだけでなく、分子の向きや角度を揃えることができる。

 多点水素結合部位の「バルビツール酸」を、汎用性半導体分子の「オリゴチオフェン」に結合させた、構造の異なる2種類の分子を合成し、それらのわずかな違いを利用して、さまざまな条件下で集合構造を制御することに成功した。

 例えば、溶解性の向上に必須な4本の「ヘキシル鎖」が、半導体分子の左右どちらよりに結合しているかで異なり、それらの分子構造のクロロホルムへの溶解性の違いが、水素結合による集合構造の違いにあることを突き止めた。

 また、分子が高い精度で階層的に組み上がる仕組みを解明した。集合体の溶液から溶媒を除去すると、自己組織化がさらに進行し、構造が積層して異なったナノ構造が形成される。

 例えば、わずかな分子構造の違いによって規制された水素結合パターンが、溶液(1次元)から界面(2次元)、固体(3次元)と、構造を変えることなく階層的に組み上がることで、高い精度で自己組織化が進行する。

 さらに、今回の方法で得た集合構造の一つは、電子物性が異なる材料とよく混ざり合う性質をもち、水素結合性材料としては、世界最高の太陽電池としての性能を示すことがわかった。

 自己組織化によって形成される構造の違いが有機デバイスに与える影響を調べるため、オリゴチオフェンと反対の電子的性質を持つ半導体分子であるフラーレン誘導体と溶液中で混合し、乾燥させて混合薄膜を作成した。この手法は、バルクヘテロ接合法と呼ばれ、有機材料による安価な太陽電池の作製法として知られる。

 混合薄膜の形成時に、ロッド構造はフラーレン誘導体とよく混ざり合うが、多層構造はフラーレン誘導体が入りこむ隙間がなく、うまく混ざり合わないことがわかった。

 バルクヘテロ接合法による太陽電池は、電子物性が異なる二つの材料がより細かく混ざり合った方が、光励起によって異種材料の界面で電荷がより多く生まれるため、高い性能を示す。

 実際に混合薄膜に光を照射すると、ロッド構造を使ってフラーレン誘導体とよく混ざり合った混合薄膜と、多層構造のためフラーレン誘導体がうまく混ざり合わなかった混合薄膜では、光電変換効率で2倍の差がついた。

 ロッド構造を使ってフラーレン誘導体とよく混ざり合った混合薄膜による太陽電池の効率は3.0%を超え、水素結合性材料としては世界最高の性能を示した。ナノレベルの構造の違いが、太陽電池の性能に大きな影響を与えることの証明といえるとしている。

 分子の自己組織化を利用した有機デバイスは、低コスト・大面積化の面で、無機材料によるデバイスや従来の蒸着法による有機デバイスよりも優れており、今後さらに発展する分野としている。

 これまで、分子がどのように自己組織化するかを、分子構造から予測・設計することは困難だったが、近年になって、狙い通りに分子を自己組織化できるようになりつつある。

 今回の成果は、こうした分子の自己組織化の応用を加速するとしている。自己組織化を利用した太陽電池の実用化も、近い将来、実現できると見ている。

 今回の成果は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)である、「太陽光を利用した独創的クリーンエネルギー生成技術の創出」研究領域における研究課題「革新的塗布型材料による有機薄膜太陽電池の構築」と、日本学術振興会科学研究費補助金・新学術領域研究「π造形科学」の一環。