図1●H2FUTUREコンソーシアムの関係者ら
図1●H2FUTUREコンソーシアムの関係者ら
(出所:FCH JU)
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図2●ドイツのマインツでシーメンス社が進めているP2G実証プロジェクト「Energiepark Mainz」
図2●ドイツのマインツでシーメンス社が進めているP2G実証プロジェクト「Energiepark Mainz」
(出所:Siemens)
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図3●「Energiepark Mainz」実証プラント建屋内のPEM電解装置。6MWのプラントを2MWのPEMユニット3基で構成する
図3●「Energiepark Mainz」実証プラント建屋内のPEM電解装置。6MWのプラントを2MWのPEMユニット3基で構成する
(出所:Siemens)
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 「燃料電池および水素共同事業(FCH JU)」は2月7日、欧州委員会(EC)が「P2G(Power to Gas)」プロジェクトに向け、実証プラントの建設を発注したと発表した。風力や太陽光など再生可能エネルギーから水素を生成するもので、「H2FUTURE」とのプロジェクト名の下、官民連携で取り組む。

 プロジェクトのコンソーシアムは、オーストリアの鉄鋼メーカーであるフェストアルピーネ(voestalpine)社、電機大手の独シーメンス(Siemens)社、オーストリアの電力事業者であるファーブント(VERBUND)社を中心に構成される(図1)。

 実証プラントは、フェストアルピーネ社のリンツ(Linz)事業所に建設されるという。プロジェクトの総額は今後4年半で約1800万ユーロであり、そのうちの約1200万ユーロをFCH JUが「EU Horizon 2020」プログラムから割り当てている。

 H2FUTUREプロジェクトの背景には、欧州における再エネ電力の余剰問題と、さらなる温室効果ガス削減の必要性がある。

 欧州では風力や太陽光発電の設備容量が近年急速に増加したが、系統網の容量増強が電源の伸びに追い付かず、発電した電力を捨てざるを得ない状況が発生している。一方、2030年までに温室効果ガスを40%削減するという目標も達成しなければならない。

 そこで、再エネの余剰電力活用と産業の低炭素化を同時に進める方策として、温室効果ガスの排出量の多い鉄鋼業での水素利用が注目されている。従来の製鉄プロセスでは、鉄鉱石に含まれる酸素の還元に石炭から製造するコークスが使われ、その過程で大量の二酸化炭素を排出する。

 今回のプロジェクトでは、コークスを天然ガスや再エネ由来水素で置き換えることを目指す。フェストアルピーネ社は、天然ガスによる直接還元技術を採用した製鉄所を2016年10月に米国テキサス州のコーパスクリスティで操業開始している。今回の「水素還元」は、同社が目指す「CO2ニュートラルな製鉄」の一環となる。

 ファーブント社は、再エネ100%の電力を供給するという目標を掲げている。同社は、H2FUTUREプロジェクトを、その目標を達成するための過程や手段ととらえ、水素による再エネの貯蔵を同社の電力事業に取り込む意向である。

 シーメンス社は、イオン交換膜(PEM)によるP2Gプラント装置や技術をH2FUTUREに提供する。同社は、6MWの再エネ電力から水素を生成する実証プロジェクト「エナジーパーク・マインツ(Energieoark Mainz)」をドイツのハンブルクで手掛けた実績がある(図2、図3)。H2FUTUREでも、マインツと同様の電気分解装置や技術が採用されるとみられる。