原理のイメージ
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電子の作るクーパーペアが、隠れた複合フェルミオンの作るペアとの間を行き来することで高温でも超電導状態を安定させていることが分かった。(画像:プレスリリース)
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 東京大学とフランスのパリ南大学は2016年1月29日、銅酸化物高温超伝導体の超伝導が高温で起きる原因となる新しいメカニズムを発見したと発表した。数値シミュレーションにより従来の理論では説明の付かない電子の振る舞いを発見し、この異常な振る舞いが高温超電導の直接の原因であることを突き止めた。高温超伝導体の設計に新たな指針を与える成果という。

 1986年に銅の酸化物群が高温超伝導を示すことが発見されて以来、膨大な数の研究が行われてきたが、そのメカニズムには多くの謎が残されている。これまでの研究で銅酸化物超電導体も他の超電導体と同様に2つの電子がペア(クーパーペア)を組んで運動していることが分かっており、多くの理論では2つの電子を引き寄せる力(引力)に偶数個の電子で作られた粒子(ボソンの一種)が仲立ちしていると推測していた。

 今回、銅酸化物の電子状態をよく表すと考えられている理論模型について、電子間相互作用の最新理論に基づく数値シミュレーションを実施した。その結果、金属状態では特別強い相互作用効果を感じていた電子が、超電導状態になると突如ほとんど相互作用を感じなくなるという不思議な振る舞いを見出した。これは、ボソンが引力を生むという従来理論では説明がつかないという。

 そこで、偶数個の電子ではなく、奇数個の電子で作られる粒子フェルミオンの一種(複合フェルミオン)が存在しているのではないかとの仮説を立て、その場合の電子の振る舞いを検証したところ、数値シミュレーション結果を驚くほどよく再現できた。複合フェルミオンは電子のようなもともとの素粒子ではなく、電子間に働く強い反発相互作用によって多数の電子から固体中で作られると考えられる。また、クーパーペアの電子が複合フェルミオン状態との間を行き来することで超電導を高温まで安定化させていることが分かった。

 今後は、複合フェルミオンが観測できる実験を考案し、複合フェルミオンが存在するという理論的予言を実験でも実証するとともに、銅酸化物に次いで高い温度で超電導を示す鉄系超伝導体などについても関連を解明することを目指す。