国立がん研究センターは2018年1月23日、正常組織に蓄積された微量の点突然変異の測定法を開発したと発表した。既に手法が確立しているDNAメチル化異常の測定と併せて、正常組織から発がんリスクを正確に診断可能になるという。がんになる前の正常組織で発がんリスクを正確に予測できるようになれば、検診の頻度を適正化でき、早期発見・治療にもつながると期待される。

 多くの成人のがんは、加齢のほか、喫煙や飲酒、ピロリ菌感染の有無といったライフスタイルによる点突然変異とDNAのメチル化異常が蓄積することで発症することが知られている。これらの異常はがんになる前の正常な組織に蓄積されているものの、その量が微量なため測定は困難だった。

 これに対し国立がん研究センター研究所エピゲノム解析分野の研究グループは2006年、DNAメチル化異常の蓄積の測定に成功。発がんリスクとの関連を解明した。2008年からは臨床研究を実施し、胃粘膜に蓄積したDNAメチル化異常の量が多いと、胃がんの内視鏡治療後に別の胃がんが発生するリスクが3倍高まることを2016年に明らかにしている。

図1●発がんリスクと点突然変異およびDNAメチル化異常の蓄積増加の関連(出所:国立がん研究センター)
図1●発がんリスクと点突然変異およびDNAメチル化異常の蓄積増加の関連(出所:国立がん研究センター)
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 一方、微量の点突然変異の蓄積についてはこれまで、測定困難な状況が続いていたという。研究グループは測定法の開発を進め、2017年にDNAサンプル調整の簡単な工夫によって、次世代シーケンサーの精度が低い部分を克服することに成功。105個の遺伝暗号あたり1個の異常も測定可能とする方法を開発した。

 今回はこの新しい測定方法を活用。ライフスタイルをもとに、発がんリスクがほぼない人、リスクがややある人、リスクが高い人に被験者を分け、正常な食道と胃粘膜での点突然変異とDNAメチル化異常の蓄積をそれぞれ測定した。

 測定から得られた知見は大きく3つある。第1に、発がんリスクの上昇に応じて、点突然変異とDNAメチル化異常の両者または一方の蓄積が増加することが分かった。食道では発がんリスクが高いほど、点突然変異とDNAメチル化異常の両者とも蓄積量が増加することを確認した。一方、胃では発がんリスクが高いほどDNAメチル化異常の蓄積量は増加したものの、点突然変異の増加と発がんの関連は確認できなかった(図1)。