現在の液晶や有機ELの次の世代と目される新しいディスプレー技術の発表が、学会で増えてきている。象徴的だったのが、2016年12月に開催された「第23回International Display Workshops(IDW/AD'16)」だ。特に注目を集めたのが、量子ドット(QD)とマイクロLED(Micro LED)である。いずれも「MEET(MEMS and Emerging Technologies for Future Displays and Devices)」セッションで集中的に取り上げられた。ここ1年ほど、ディスプレー分野では、フレキシブルへの期待と共に有機ELが注目され、本格的な実用化も目前まできている。その中で、新しいディスプレーの胎動を感じた。

量子ドットは第2フェーズ、Cd対応で分かれる戦略

 量子ドットの液晶ディスプレーへの応用は4年前から始まっており、徐々に市場に浸透している。しかし、当初期待された爆発的な拡大は見られていない。その背景の1つには、Cd(カドミウム)が主要な材料として使われていることがある。当初、量子ドットのメーカー各社が一斉に液晶への適用を目指して参入してきた時期を第1フェーズとすると、2015年にCd規制の例外適用延長が議論されたころから、各社それぞれの方向を明確にし始めた。現在は、第2フェーズに入ったと言える。

 もともと「Cdフリー」をうたっていた英Nanoco社は、Cd系に比べて劣っていた性能を徐々に改善している。今回のIDWでの発表では、半値幅が緑で30nm、赤で40nm、量子効率が90%まで改善されたことを示した(論文番号MEET5-2)。Cd系の材料を推し進めてきた米Nanosys社は、非Cdの材料を混ぜることで、Cdの含有率を規制値100ppm以下に抑えながら、半値幅が緑で18nm、赤で43nm、量子効率が92%と、Cd系と同等の値を得た。同社は2017年から市場に出すと報告した(同MEET5-1)。

 この他、液晶ディスプレー応用への様々な取り組みも進んでいる。メルクは、液晶ディスプレーのカラーフィルター(CF)への量子ドット応用について講演した(同MEET5-4)。中国Southern University of Science and Technologyは、LEDチップに量子ドットを載せる“On Chip”方式の講演を行った(同MEET5-3)。ドイツCenter for Applied Nanotechnologyは、量子ロッドの特性向上を目指した開発を継続的に行っている(同MEET2-5)。

オール印刷、有機EL代替を目指すQLED

 現在は自発光型の有機EL(OLED)でフレキシブルディスプレーを目指した開発が続けられている。その発光層を量子ドットで形成し、電子/ホール輸送層など他の層も含めて全て印刷法での形成を目指す「QLED」の発表も増えつつある。中国Chinese Academy of Sciences(OLED2-4)、韓国Kyung Hee University(MEET4-1)、韓国Seoul National University(MEET4-2)、中国Fuzhou University(MEET4-3)、英国Brunel University(MEET4-4)、中国Southern University of Science and Technology(MEET5-3)などが発表した。ポスター発表も4件あった。

 各講演では、QLEDの構造、プロセス、QLED材料などに関する開発状況が報告された。例えば、韓国Kyung Hee UniversityのProfessorのJin Jang氏は、酸化物半導体を陰極層に用いた反転構造のQLEDを提唱するとともに、様々な種類の量子ドット材料を紹介し、特性の改善に向けた方向性を示した。中国Fuzhou UniversityのFushan Li氏は、グラフェン型の量子ドットで青色発光が得られることを示し、印刷プロセスでフレキシブルQLEDを試作した。他に、ペロブスカイト(Perovskite)構造の材料を用いた発表が数件行われた(PH(Inorganic Emissive Display and Phosphors )セッションを含む)。