図1 FJKSWADの操作画面
図1 FJKSWADの操作画面
フレーム状の構造物が、下方の機械の動きによって影響を受ける様子を解析している例。
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図2 MrsR法が得意とする固まり形状
図2 MrsR法が得意とする固まり形状
細かい穴や突起を単純化せずに解析できる。
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 富士通システムズ・イースト(本社東京)はCAEソフトウエア「FJKSWAD」の次期版「同V7L2」で、計算速度を最大60倍に高速化可能なアルゴリズムを組み込む。FJKSWADは機械設計者が手元のPCで使うことを想定した構造・熱解析用のソフトで、スーパーコンピューターなどの大量の計算資源を前提としたものではないが、複雑な形状の設計対象を近似のため単純化することなく解析したいというニーズに応える。九州大学情報基盤研究開発センター教授の藤野清次氏との共同研究によって開発した。同社は、FJKSWAD V7L2を2015年12月中に発売する予定(図1)。

 FJKSWAD V7L2で改良したのは、CAEの中でも最も時間がかかる、連立一次方程式を解くソフト(ソルバー)。ソルバーの計算方式には大きく分けて直接法と反復法があり、今回は反復法の中でも、藤野氏による最新の改良結果である「MrsR(ミセスアール)法」を用いた。射出成形品、鋳造品、鍛造品といった固まり形状に向いており、メッシュを非常に細かく切っても現実的な時間で計算できるのが特徴。計算例の1つでは、46万節点191万自由度のモデルでFJKSWADの前バージョンの直接法ソルバーで18時間かかっていた計算が、V7L2では18分で終了し、約60倍に高速化できた。14万節点41万自由度のモデルでは22倍速くなった。

 現実の機械部品には突起や穴、溝などが多数あるが、これらを忠実に計算に入れると時間がかかりすぎるため、計算者は細かい形状を省略して時間を節約するよう工夫するのが一般的。しかし、このモデル上の工夫は独特のノウハウを必要とする上、一種の近似処理であるため、機械部品のモデルに手を加えずにそのまま解析したいというニーズがある。新しいアルゴリズムでは、細かい形状を省略しなくても速く計算できると期待できる(図2)。

 柱や梁で構成した構造物に対しては、上記の高速化効果は得られないが、直接法とほぼ同等の速さで計算でき、著しく遅くなることはないという。細長い部材で構成された構造物の中に、複雑な固まり形状の機械装置を設置するような場合の計算にも適用できる。

 上記の高速化効果とは別に、MrsR法にはなるべく並列処理の効果を引き出せるようにする改良も加えてある。アルゴリズムのソフトへの実装に関しても、「同じグループの富士通が手掛けたスーパーコンピューター『京』で培った並列化ノウハウをふんだんに盛り込んだ」(富士通システムズ・イースト)としている。

 V7L2ではソルバーの改良に加えて、最適なソルバーを自動で選択する機能も加えた。モデルの規模、形状、解析内容、境界条件をパラメータ化して、解析モデルに応じて直接法か反復法を含め、複数のソルバーのどれが最も適するかを判定する。さらに、解析要素(メッシュ)への分割処理の確実性も向上した。要素分割に失敗しやすいとされる、複数部品を含むモデルに対して、どの部品から先に分割処理するかを判断し、要素を必要以上に細かくすることなく処理の失敗を減らす。

 価格は、標準版の「FJKSWAD V7L2/Standard」が180万円から、並列化オプションが80万円から。

* 反復法は、解の候補として任意の初期値を選び、真の解に近づくように候補を修正する作業を反復する方法。理論上は、自由度がnのとき、最大n回の反復で真の解に到達する。実用上は、修正量が無視できる程度に小さくなった時点で計算を打ち切るため、反復回数はnより小さくなる。
 MrsR法においては、最も基本的な反復法である共役勾配(CG)法に比べて、この反復回数が少なく、約半分で済む場合もある。候補の修正方法を工夫し、真の解へ早く近づくようにしたとみられる。同じように考え出された工夫にさまざまなものがある中でも、MrsR法は最新の成果という。