電子化の進んだ自動車では、ハッカーによる乗っ取りが現実的なものとなりつつある。この対策として、暗号回路等のセキュリティーデバイスを自動車に搭載する取り組みが進みつつあるが、暗号鍵を攻撃者に盗まれては対策の効果が無くなってしまう。暗号鍵を奪取するためのサイドチャネル攻撃などの具体的な攻撃方法の解説と、その対策として耐タンパー性を持たせたデバイスについての提案、そして実証結果の紹介を立命館大学 教授の藤野毅氏(理工学部 電子情報工学科)が行った。

講演する藤野毅氏 シンポジウム主催者が撮影。
講演する藤野毅氏 シンポジウム主催者が撮影。
[画像のクリックで拡大表示]
図1●ハッキングはすでに現実 藤野氏のスライド。
図1●ハッキングはすでに現実 藤野氏のスライド。
[画像のクリックで拡大表示]

 これらは、DAシンポジウム2015(情報処理学会 システムとLSIの設計技術研究会が石川県で2015年8月26日~28日に開催)の同氏の招待講演で行われた(写真)。講演タイトルは「耐タンパセキュリティハードウエアの開発と車載システムへの応用」である。この講演で同氏は、最近脅威となっている車載システムのハッキング手法と、それに対抗するための耐タンパー性(内部情報保護力)を高めるための技術について実験結果を織り交ぜながら紹介した。

 講演の冒頭で、車載システムのハッキング事例が2件紹介された(図1)。1件目は、2013年8月に米国ラスベガスで行われたDEFCONと呼ばれる世界規模のハッカーの祭典に発表である。日本や米国の車にハッキングを行う手法が発表され,パソコンからの制御でハンドル操作やブレーキ操作を実際に行う動画がYouTubeに掲載された。

 2件目は、2015年に起きた事例である。同じハッカーが携帯回線から車両に遠隔侵入し,走行中の車のワイパー動作やエンジン停止を行ったことで,米FCA US社(旧:クライスラー社)の140万台の自動車がリコールになった。

 これらは、自動車のハッキングがSFの世界の中の話ではなく現実に起こっている問題であることを示している。このような事態に対し欧米では多くの人が危惧を抱いているのに対して、日本ではまだ認知度や関心が低い状況にあることも指摘された。