長嶋氏
鉄道総研の長嶋氏
鉄道総研 浮上式鉄道技術研究部 部長を務める
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 夢のプロジェクトがついに動き出す。鉄道総合技術研究所(鉄道総研)やクボテック、古河電気工業、ミラプロ、および山梨県は、超電導フライホイールの実証施設をこのほど完成させ、実証試験を開始した。山梨県が運営する米倉山大規模太陽光発電所と電力系統に連系させ、メガソーラーの出力変動緩和に用いる。研究開発を主導してきた、鉄道総研 浮上式鉄道技術研究部 部長の長嶋賢氏に話を聞いた。

――超電導フライホイールの研究を始めたのはいつごろですか?

 「2005年から取り組んでいる。当時、ちょうど超電導磁気浮上式鉄道(超電導リニア)に関する鉄道総研での研究開発が一つの区切りを迎え、その後は事業会社の応用開発に移るというタイミングだった。超電導リニアの開発で得た知見を、一般の鉄道システムなどにも展開すべく、新しい研究テーマを探り、超電導フライホイールによる蓄エネルギーに白羽の矢が立った」

 「もともと、鉄道においては車両がブレーキをかける際に運動エネルギーを電気に変換し、その電力を架線を通じて他の車両が消費するなどしてエネルギーの有効活用する仕組みがある(回生ブレーキ)。しかし、回生電力を受け取る車両が近くにいなかった場合などにこのエネルギーが有効活用できないなどの問題があった。そのエネルギーを一時的に蓄える媒体としてフライホイール蓄電装置がある。私自身も、20年ほど前にも別のタイプの超電導フライホイール蓄電装置の磁気軸受の開発に関わっていたことがある。その時の経験が今回の超電導フライホイールの発想につながっている」

 「今回は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の『安全・低コスト大規模蓄電システム技術開発』プロジェクトに提案したものだ。メガソーラーなど再生可能エネルギーの出力変動緩和などを目的としている」

――今回完成したのはどのようなシステムですか?

 「蓄電容量が100kWhで、最大出力が300kWのシステムだ。重さが4トンのフライホイールを、毎分6000回のスピードで回転させることでエネルギーを貯める。イットリム系高温超電導線材によるコイルを使い、-223℃以下の低温下で回転させている。6000回転から3000回転に回転数を落とすまでに、エネルギーを放出する」

 「設置したのは、山梨県の米倉山大規模太陽光発電所の近くだ。山梨県企業局が建設した約1MWのメガソーラーに隣接し、同施設の出力変動の緩和などの実証試験を行う」

――フライホイールのシステムの強みとはどのような点ですか?

 「保有する全エネルギーのうち、約3/4を放出できることだ。毎分6000回転から毎分3000回転まで回転数を半分にする際に、それだけのエネルギーを取り出せる。ほかの蓄エネルギー技術では、保有するエネルギーが大きくとも、全体の1~2割程度しか取り出せないものもある。そうした技術に比較すると、実効容量が高いという言い方もできるだろう」

――今後のスケジュールを教えてください。

 「今後、実証試験を進めていく。試験では、エネルギーの出し入れがうまくできるかなどの基本機能の確認に加えて信頼性や耐久性、省メンテナンス性などが調査項目になる。加えて、低コスト化の検討も必要になる」

 「実用化の時期としては、なるべく早く進めていきたい。今後数年で、形にできたらと考えている。2020年の東京オリンピックのタイミングで、日本独自の蓄電技術として海外にもアピールができたらと思っている」