プレスカンファレンスで発表されたアナログターンテーブルの試作機
プレスカンファレンスで発表されたアナログターンテーブルの試作機
[画像のクリックで拡大表示]
かつての名機に搭載されていたダイレクトドライブモーター
かつての名機に搭載されていたダイレクトドライブモーター
[画像のクリックで拡大表示]
新開発のダイレクトドライブモーター
新開発のダイレクトドライブモーター
[画像のクリックで拡大表示]
新開発のターンテーブル
新開発のターンテーブル
[画像のクリックで拡大表示]
かつてのダイレクトドライブモーターの実働デモンストレーションユニット
かつてのダイレクトドライブモーターの実働デモンストレーションユニット
[画像のクリックで拡大表示]

 パナソニックの「テクニクス」ブランドの高級オーディオが2年目を迎え、「IFA」のパナソニックブースではさまざまな新製品が展示されていた。その中で、オーディオのファンたちが、目を輝かせてガラスの陳列ケースの中を見つめている場所があった。そこには新旧のダイレクトドライブが展示されていた。確かに、「テクニクス=ダイレクトドライブモーターのターンテーブル」というのは、業界に染みついたイメージであり、それを見たい人が続出しているのも分かる。かつてはハイファイ用として「SP10」が、DJには「SL1200」が愛されていた。

 テクニクス事業推進室室長でパナソニック アプライアンス社常務の小川理子氏によると、「昨年、テクニクス復活を宣言する前から、『きっとターンテーブルのことは言われるだろう』と想定はしていましたが、予想以上のものすごい要望でした。全世界からで、なんと2万5000通近い嘆願書までいただいたんですよ!」。そんな全世界からの要望に応えて商品化に踏み切る。

 商品は何にするか。ハイファイ用か、DJ用か。「DJの方からの希望も多かったのですが、われわれは“Emotionally-Engaging Musical Experiences”、つまり“音楽を通じた感動をお届けしたい”というコンセプトを掲げています。そこで、まずはハイファイ用から始めると決めました。その場合、元祖ダイレクトドライブ方式として完全復刻版でいくのか、それとも新規開発により新しい挑戦をするのかを議論しました。最終的には『せっかく出すんだったら、今の時代に合った新しい技術でダイレクトドライブに挑戦しよう』と決めました。伝統の技術と最先端技術を融合させて新たな価値を生み出していくことが、テクニクスのフィロソフィーの根幹ですから」(小川氏)。

 「新しい技術でダイレクトドライブに挑戦」という大袈裟な言い方は何だ? かつては、テクニクスのダイレクトドライブといえば、泣く子も黙るハイファイの大定番だった。しかし、その後、「ダイレクトドライブは音が悪い」という悪評が立ち、今ではハイエンドオーディオ市場では、ベルトや糸ドライブの重量級のターンテーブルが主流になっている。だから、テクニクスの挑戦とは、単に伝統のダイレクトドライブを現代に蘇えらせることだけでなく、「ダイレクトドライブ=音が悪い」という悪評も払拭し、「さすがテクニクスの新ダイレクトドライブは音が良い」という評価を勝ち取らなければならない。

 チーフエンジニアの井谷哲也氏が言う。「なぜダイレクトドライブで問題なのかを調べると、コギング(小刻みな振動)がハイトルクモーターで発生することが分かりました。このコギングを追放したダイレクトモーターを、これから開発します。今回は、コギングを避けるためにコアレス、つまり鉄心のないモーターを使います。そうなると磁力が弱いので大きめのモーターが必要なので、あえてトルクのある大型モーターを積んでいます。また、当時のダイレクトドライブは、基本設計が70年代当時のものなので、プリミティブなサーボしかなかったんです。今回は、制御系には学習サーボを投入します。その後DVDやBlu-ray Disc(BD)の発展で、サーボは大進化していますので、ダイレクトドライブモーターの欠点も克服できることも分かってきました。過去の先達の偉大な伝統を踏まえつつ、ダイレクトドライブを再定義するというコンセプトで開発します」。

 2015年夏公開の映画「ミッション:インポッシブル」でトム・クルーズ(Tom Cruise)がレコードで任務の指示をされるが、そこで使用されたターンテーブルがテクニクスだった。小川氏は「テクニクスの新たなターンテーブルの開発は、われわれにとってもミッション:インポッシブルになる」とプレスカンファレンスで語った。