米Google社がトヨタ自動車のマネジメントを学び、実践に移している。これまでの欧米企業とは一線を画し、従来型のMBA(経営学修士)を基にしたマネジメントに背を向け、実践型マネジメントに舵を切っているのだ。「技術者塾」において講座「トヨタ流マネジメント講座」の講師の1人である豊田マネージメント研究所副社長の高木徹氏に詳細を聞いた。

─Google社のマネジメントを研究して興味深いことが分かったとのこと。どういうことでしょうか。

高木氏:実は今、欧米の先進的な企業は「従来型のMBA(経営学修士)スタイルのマネジメントはもう古い」と考えています。従来型のMBAのマネジメントに基づいて経営戦略や中期事業計画を立てても、世界の変化が速すぎるなどして対応できず、競争力につながらないからです。

 いち早くそれに気付いた企業が米Alphabet社傘下のGoogle社です。Google社の創業者で前最高経営責任者(CEO)のラリー・ページ氏(現Alphabet社CEO)は、従来型のMBAスタイルのマネジメントが既に通用しないと言及しています。

 MBAは知識を中心にした経営理論。理論を学んだ後、「では、具体的にどうしたらよいのか?」という段階に進むと、解がなかなか見つからない。実践型のマネジメントの世界となり、経営理論は通用しなくなるからです。現場の人がすばやく変化に気付き、計画を軌道修正する必要があります。

 Google社は、相当な経営資源を使って世界の優秀な企業のマネジメントを研究しています。その筆頭がトヨタ自動車だったのでしょう。シリコンバレーのベンチャー企業である同社は、リーンスタートアップの考え方を取り入れて成長してきたので、当然、トヨタの考え方や思想がベストプラクティス(最良の策)であることを知っています。そして、トヨタ自動車が実践型マネジメントを行っていると突き止めたのだと思います。

 欧米では製造業以外にも金融やIT、医療、サービス業など、あらゆる分野に「Lean〔リーン、トヨタ生産方式(TPS)を基にした欧米流の改善プログラム〕」が浸透してきています。欧米の経営者は、「トヨタ自動車は持続的に高い収益を出せる優れた企業であり、そのマネジメントには何か秘密があるはずだ」と捉える人が多いのです。

 こうした世界の変化に気付かずに、多くの日本企業が未だに知識偏重タイプである従来型のMBAスタイルのマネジメントに執着しているというわけです。

─なぜ、多くの日本企業は欧米型の経営理論に学ぼうとするのでしょうか。

高木氏:実践型のマネジメントのプログラムが世界的に存在しないからでしょう。「学校教育の中に経営理論はあるが、実践型のマネジメントを教えるプログラムはない」というのが、企業のマネジメントを研究するある大学教授の弁です。それをMBAで代替しようとしても理論しか学ばないので実践できないのです。

 多くの日本企業ではマネジメントがばらついています。前任と後任のマネージャーではやり方が変わるというのは珍しくないはずです。マネジメントが属人的になってしまっている。小学校から大学までマネジメントについて教育の場所がないというのが、先の大学教授の考えです。そうした理由で、日本企業のマネジメントは有名な欧米企業のそれを模倣し、また従来型のMBAを良しとしてきたのでしょう。