顧客1人ひとりに異なった形状の製品を安価に造り分ける「マスカスタマイゼーション」。3Dプリンターは、これを実現する有力な手段として期待されている。

 ところが現実には、「1人に1個」よりももっと多くの数を造り分ける企業がある。歯並びをきれいに整える歯列矯正器具メーカーのオランダAlign Technology社だ。3Dプリンターの活用によって、これまでに300万人の顧客に対して数億個もの造り分けを実現したとみられる。

少し異なる“歯形”で歯列を矯正

 同社の「Invisalignシステム」の歯列矯正器具(アライナー)は、薄いマウスピース状の“かぶせ物”である(図1)。弾性のある透明なポリウレタンの膜(厚さ1mm以内)でできている。被治療者の上下顎それぞれの歯列全部をすき間なくぴったりと覆う。ワイヤーを使った従来の矯正器具とは全く異なるものだ。

図1 「Invisalign」で使うアライナー
図1 「Invisalign」で使うアライナー
アライナーは薄い透明のポリウレタン樹脂製(a)。歯に装着するとほとんど見えない(b)。
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 このアライナーの形は、被治療者の歯列と少しだけ異なっている。歯列矯正とは、被治療者の口の中で特定の歯だけを移動させることであり、その動かしたい歯の位置を移動後の位置に替えたものがアライナーだ。被治療者がこれを1日当たり20時間以上はめ続けていると、アライナーの形状に従って徐々に歯が動くことになる。