銅は、導電率や熱伝導率の高さから幅広い製品で使われている。しかし、求められる物性を3Dプリンティングで実現するのは難しく、ほとんど使われていないのが実情だ。そんな中、ダイヘンは銅合金の3Dプリンティングに関する造形ノウハウを蓄積し、その造形技術を確立した。自社製品への適用にとどまらず、社外にライセンス提供することも視野に入れる。

1000Aの溶接トーチを小型・軽量化

 ダイヘンは銅合金の3Dプリンティングによる造形を、試作だけでなく実製品の製造にも適用している。例えばアーク溶接用の水冷トーチでは、構成部品の一部を3Dプリンターで造形し、大幅な小型・軽量化を実現した(図1、2)。

図1 3D プリンティング技術を活用して開発した1000A対応の水冷トーチ
図1 3D プリンティング技術を活用して開発した1000A対応の水冷トーチ
構成部品の一部を銅合金を使った3Dプリンティングで造形することで、直径を従来の100mmから30mmへ、質量を従来の9000gから850gへと大幅に小型・軽量化した。これにより、狭いエリアでの溶接が可能になると同時に、多関節ロボットの動作速度を高めることもできる。
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図2 水冷トーチのカットモデル
図2 水冷トーチのカットモデル
熱伝導性の高い銅合金を用いて複雑な水路を形成することで、高い冷却性能を実現した。
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 この水冷トーチは、1000Aという高電流に対応したもの。電流値を上げることで従来は何回も往復させる必要があった厚板の溶接を1パスで完了でき、工程を削減できる。

 ただし、高電流によって発熱量も大きくなるため、高い冷却性能や高温での強度維持が求められる。従来はトーチが大きくなりがちで、「実際には1000Aまで高めるのは難しかった」(同社)という。

 新しい水冷トーチでは、3Dプリンティングによる形状の自由度の高さを生かし、冷却性能を最大化させる複雑な水路を実現。銅合金の導電率の高さと相まって、従来品に比べて直径は70%減、質量は約1/10にすることができた。小型・軽量化を実現したことで、狭い部分にもトーチが届くようになり、ロボットへの負荷も軽減できる。

 これ以外にも、高電流用の接続金具や、長穴が開いたスリップリングなどに銅の3Dプリンティングを適用し、小ロット製品の納期短縮を目指す。既に社外からの問い合わせも増えてきており、例えばベリリウム銅が使われているような金型に用いることで、水冷配管を最適化するといった例が検討されているという。