独創的な製品やサービス、技術などを世に送り出すには、「やりたいことだけをやる」というわけにはいかない。気が進まないこと、もっと言えばやりたくないことであっても、気を入れて取り組まなければならない。

 例えば、いつ成功するか分からない実験を地道に続ける、利害が異なる他の部署と粘り強く交渉する、いかんともしがたい上司を説得する、仕事に真剣に取り組まない部員を厳しく指導する、といったことがあるだろう。こうした「やりたくないことをやる」際の葛藤を、いかに乗り越えていくかが今回のテーマである。

無意識下の欲求を制御する

 「やりたくないことをやる」際の葛藤を乗り越える強力な足掛かりは、論理的思考である。「やりたくない」という感情や欲求は無意識のうちに生じてくるので、「なぜやるべきなのか」「やらない場合、どんな結果を招くか」などを理詰めで考えて、やりたくないという感情を自己コントロールする必要がある。

 しかし、これは「言うは易く行うは難(かた)し」だ。感情や欲求は人間の本性の奥底から湧き出てくるものなので、頭で考えた論理で抑え込むことは極めて難しい(2015年9月号の第8回参照)。ではどうすればいいのか。脳科学の成果を活用しながら探りたいと思う。具体的には、以下の5項目に沿って考察していく。

[1]「欲求」×「選択」からなる「行動の4つの窓」
[2]快楽中枢の発見
[3]ドーパミンの放出が作り出す行動パターン
[4]副交感神経優位のゆったり呼吸法
[5]マインドセットの転換による自己コントロール