部下の「心を動かす」マネジメントの鉄則として、「人間の本質に沿ったマネジメントを実践すること」「人間の本質と対立する場合は、その対立を払拭する、もしくは緩和するような工夫をマネジャーが意図的に実施すること」を前回(2015年8月号)紹介した。しかし、これは簡単なことではない。具体例として前回挙げた「休暇取得の助言」や「リスクテークの提案」などは、その状況では有効だったが一般性があるわけではない。状況に合わせ指示内容を変える必要がある。

 筆者は「より良いマネジメントとは何か」と今も悩み続けている。多くのビジネス書や心理学関連の書籍、著名な経営者の名言集などを読んでみたが、概念的なものが多く、現場でのマネジメントに役立つものはほとんど見つけられなかった。その中の唯一の例外が脳科学である。脳科学の基礎知識を身に付けたとしても部下の心を動かすマネジメントがすぐにできるわけではない。しかし、脳科学は何が最も基本的なことかを、科学的な裏付けを持って教えてくれる。イノベーションの設計図の各項目に確固たる足掛かりを与えてくれるのだ(図1)。

図1 イノベーションの設計図 組織の設計編
図1 イノベーションの設計図 組織の設計編

 脳科学とは、脳の機能、ひいては心の状態などを、神経細胞や分子レベルで明らかにしていく分野のことだ。近年、機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)や陽電子放射断層撮影装置(PET)などの画像技術が急速に進歩したことで、ある心の状態(例えば、やる気に満ちた状態)の時に、脳内でどのような細胞の活性化や生化学反応が起きているかが、かなりつかめるようになってきた。そのため、心のマネジメントに有効なツールとなり得るのだ。

 今回は、心を動かすマネジメントを実践する上で、何が最も重要で最も基本的なことかを解説する。まずはイノベーションを含めた創造的な仕事のマネジメントの特徴を押さえておこう。