イノベーションに挑む組織のマネジメントで特に重要なことは、部員の1人ひとりのやる気を引き出すことである。これが上司たるマネジャーの使命であり、プロフェッショナルとしての腕の見せ所だ。しかし、自分の上司に、こうしたプロがなるとは限らない。「上司は選べない」のである。

マネジメントのプロではない上司

 「やたらと高い目標(ノルマ)は設定するのに、なぜそれが重要なのかを説明しない」「部員の成果を自分の功績にしてしまう」「暗い顔で後ろ向きの発言を繰り返し、部員を不安にさせる」─。こんなマネジャー(上司)は極端な例かもしれない。しかし、似たような行動を取る上司は決して珍しくはない。少なくとも筆者には、講演などの機会を通じてそんな上司に関する悩みが数多く耳に入ってくる。

 今回は、こうした上司、つまりマネジメントのプロフェッショナルではない上司への対抗策を紹介する。このテーマを選んだのは、修士課程2年の学生から、切実な質問を受けたことがきっかけになった。筆者はつい最近、工学系大学院の学生に対してイノベーション・マネジメントの集中講義を行った。そのとき質問をした学生は、イノベーションに挑戦するやる気や勇気を引き出すためのマネジメントが重要なことは分かったという。しかし一方で、就職をしている先輩から、イノベーション・マネジメントを実践できる上司はほとんどいないと聞いていると話した。

 その上で彼の質問は、「上司のイノベーション・マネジメントに期待できないとき、イノベーションへのやる気を高めるために自分自身で何ができるか」という内容だった。これから就職する学生にさえ、そんな不安を抱かせたのだ。マネジメントに対する不安や不満は根強い。これまでの連載でも、「いかんともしがたい上司」への対抗策を部分的に盛り込んできたつもりだが、今回はまとめて紹介したい。