前回(2017年4月号)、脳神経のネットワークがほぼ完成された後では個の行動・態度は変わりにくいとされるものの、脳には『可塑性』があるため、学習や訓練によって行動・態度に関する新しいネットワークが再構築される可能性はあると指摘した。脳の可塑性とは、脳神経のネットワークが生涯にわたり変化することだ。今回は、この「脳の可塑性」がテーマである。

意識的な努力が不可欠

 脳の可塑性を活用すれば、一般に脳神経のネットワークが完成するとされる25歳どころか、それ以降の全生涯にわたって新たな可能性が開けてくる。しかし、「人を動かす」ための資質が不足していると自覚している個(マネジャーと部員)や、その資質が不足している部員に対してどのように対処したらよいか悩んでいるマネジャーは、個の行動・態度を本当に変えることは可能なのかと疑心暗鬼だと思う。

 具体的にすべきことは、何かを“やりたい”“実現したい”“挑戦したい”といったはっきりとした意識を持つ、もしくは持たせることだ。そうした意識を集中することで注意力を高め、効果的な認知活動を選択し、健康な脳を維持管理し、情熱を持って諦めずに繰り返し実行すれば、脳の神経ネットワークを変えることができる、と筆者は信じている。

 しかし、「No pain, no gain(痛みや苦労が伴わなければ、獲得できない)」である。この言葉は、居心地の良い精神状態から居心地が悪い(つまり、ストレスが高い)精神状態に自分を追い込まないと、何かを成し遂げることはできないと戒めたものだ。 認知機能*1は、ただ漠然と過ごしていたのでは向上しない。自己改革することを明確に意識し、注意力を持続させながら繰り返し行う努力が不可欠となる*2

*1 認知機能 物事を正しく理解して適切に実行するための精神機能。記憶力や言語能力、判断力、計算力、遂行力などが含まれる。

*2 これは筋肉の強化に似ている。ただ歩くだけ、ただ物を持ち上げるだけでは筋肉は増えない。筋肉に強いストレスをかけた状態をつくり繰り返し刺激して初めて、筋肉量は増加する。

 そのための手掛かりになるのは、「Firetogether, wire together(共に発火すれば、共につながる)」というカナダの心理学者Donald O.Hebb氏(1904-1985年)の言葉である。「発火」とは、神経細胞の膜電位の急激な変化を指す。例えば、神経細胞Bと近接している神経細胞Aを接続するシナプスで連続的な情報伝達があると、それにより神経細胞Bが発火しやすくなる。つまり、発火に寄与した神経細胞AとBの間でシナプス伝達効率が増大し、しっかりと「つながる」ようになる1)。これは、脳が本来備えている「外部の刺激に応答する形で脳の機能が柔軟に変化する」という特徴である。今回は、みなさんに「意識すれば脳の機能は変化する」ことを実感してもらうために、人間の脳について重要な4項目を説明する。

[1]脳とは神経細胞の巨大なネットワーク
[2]脳の可塑性
[3]神経細胞ネットワークの変遷
[4]「『人を動かす』ための資質」が不足している人の認知機能の改善方法─である。