キヤノンやリコーといった日本のプリンターメーカーによる3Dプリンターの開発が本格化してきた。各社は、他社製3Dプリンターの販売や造形サービスなどを手掛けながら市場を見極め、紙などの平面に印刷する2Dプリンターで培った技術をはじめとした自社技術を生かした独自性の高い3Dプリンターを開発しようとしている。

シート作製と積層を別工程で

 例えば、キヤノン。同社は2015年11月、独自の造形方式を採用した3Dプリンターを今後3年以内に製品化することを目指して開発を進めていることを明らかにした(図1)*1。造形方式の詳細は明らかにしていないものの、複数の汎用樹脂による造形が可能で、試作用途ではなく小ロットの生産装置としての利用を想定しているという。

*1 キヤノンは2014年3月10日に開催した「2014年経営方針説明会」において、新規事業の1つとして3Dプリンターを独自開発中であることを明らかにしていた。2015年10月13~15日にフランスで開催した技術展示会「Canon EXPO 2015 Paris」で新方式の概要を発表し、同年11月4~6日の「同Canon EXPO 2015 Tokyo」でも展示した。

図1 キヤノンの3Dプリンター
図1 キヤノンの3Dプリンター
材料や色が異なる造形サンプル(a)。汎用の樹脂が使える。立体モデルとなる構造材とサポート材から成るシートを作製し、それを造形エリアに敷いてエネルギーを与えて溶着させる(b)。
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 新しい造形方式は、大きく2つの工程で構成されたプロセスになる。具体的には、[1]立体モデルの断面形状部分に構造材、それ以外の部分にサポート材を配置した薄い材料シートを作製、[2]この材料シートを位置決めし、エネルギーを面で与えて溶着することで積層、というプロセスを繰り返す。

 このように、各層(材料シート)の作製と積層の工程を分離しているため、それぞれを同時並行的に実施できる。結果、「造形スピードが速い」(同社説明員)という。

 ただし、具体的な材料シートの作製方法や積層時の溶着方法については明言を避けた*2。使用できる樹脂についても明らかにしていないが、ポリプロピレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリエチレン、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂などが利用できるようだ。サポート材には、無害な水溶性材料を採用するとしており、水で洗い流すだけで簡単に除去でき、廃水も産業廃棄物処理する必要がないとしている。造形サイズは700×500mm程度の模様。

*2 材料シートの作製方法としては、液体樹脂をインクジェット方式で吐出する方法が考えられ、シート同士の積層については「溶着」という表現から熱エネルギーを加えるものと想像できるが、キヤノンが実際にどのような方式を採用したのかは不明だ。