「日経ものづくり」2017年7月号のレポート「「デジタルツイン」で真のPLMを実現、IoTやARに突き進むPTC社」を先行公開した記事です。

 米PTC社は、IoT(Internet of Things)分野での事業展開を加速させる。データ収集・分析ツールの機能拡張やオープンプラットフォーム化を進めるとともに、主力のPLM(Product Lifecycle Management)ツールとの連携も強化することで、製造業を中心とするIoT需要の取り込みを図る。

物理世界とデジタル世界を結び付ける

 「10年後に今日を振り返った時、『このことを言っていたのか』と分かっていただけるのではないか」─。2017年5月下旬に米国で開催されたPTC社のプライベートイベント「LiveWorx2017」において、基調講演に登壇した同社社長兼CEOのJim Heppelmann氏は、同社がIoTに力を注ぐ理由を説明した後でこう続けた。たとえ今は理解されなくても、IoT分野に突き進むという強い意志が伺える。

 同社の主力事業は前述の通りCADなどのPLMツールだが、ここ数年はIoTやAR(Argumented Reality)といった分野にも積極的に進出している。PLMツールベンダーの同社がなぜIoTやARに手を広げるのか。Heppelmann氏の基調講演は、このような疑問に答える内容となっていた。

 同氏によれば、IoTは現行のPLMを補完する存在になるという(図1)。これまではPLMといいつつも、数十年にわたって使われるような寿命の長い製品の情報が十分に得られず、ライフサイクルの実態を把握するのが難しかった。IoTを活用すれば、製品の使われ方などの情報を集めることが可能になる。さらに、製品のCADデータなどと組み合わせることで、いわゆる「デジタルツイン」(デジタルの双子)、すなわち物理世界の状況をデジタル世界に再現できるようになり、製品のライフサイクル全体の情報を管理するという本来の意味でのPLMが実現される。「IoTは、いわば次世代のPLMである」(同氏)。

図1 PLMとIoTの関係
図1 PLMとIoTの関係
Heppelmann氏は、陰陽をモチーフとした概念図でPLMとIoT の関係を説明した。陰陽の代わりに「物理世界(Physical World)」と「デジタル世界(Digital World)」が上下に配置され、その境界には両者を結び付ける技術がプロットされている。IoTは、物理世界の情報(センサーデータなど)とデジタル世界の情報(PLMのデータ)をつなげて、デジタルツインを実現するものと位置付けられている。
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 IoTやデジタルツインが物理世界のデータをデジタル世界に持ち込むアプローチであるのに対し、ARはデジタル世界のデータを物理世界に持ち込むことで新たな価値を生み出す技術という位置付けだ。ARでも物理世界とデジタル世界を結び付ける上ではCADなどのPLMツールが重要な役割を果たしており、PTC社のIoTやARに関する戦略はPLMツールとの連携を強く意識したものだという。

* 物理世界に実物が存在しない場合に、ARと同じような体験を提供するための技術がVR(Virtual Reality)だという。