ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)は、自動車や工場などで人工知能(AI)を活用できるようにするサービス「e-AI(embedded-Artificial Intelligence)ソリューション」の提供を開始する。AIを動作させるMCU(Micro Controller Unit)/MPU(Micro Processor Unit)やそれらを組み込んだ機器、ソフトウエアなどを、ルネサスやそのパートナー企業が供給する。

学習済みニューラルネットを実装

 e-AIソリューションの適用先として、ルネサスは「自動運転」「スマートファクトリー(工場)」「スマートホーム」「スマートインフラ」を挙げる。いずれの用途でも、クラウドのようなIoT(Internet of Things)ネットワークの上位側ではなく、センサーやアクチュエーターといった末端側でAIを動作させようとしている点が特徴だ。具体的には、システムの自律性を飛躍的に高める技術として有力視されているディープラーニング(深層学習)の学習済みニューラルネットワーク*1を、末端側の組み込み機器に実装する(図1)。これによって末端側の知能化が進み、自動運転車やスマート工場を実現しやすくなるという。

図1 AI活用の考え方
図1 AI活用の考え方
左は、ルネサスがe-AIソリューションで想定しているAI活用のイメージ。末端側に学習済みニューラルネットを実装することで、自律性を高める。右は、従来の一般的なAI活用のイメージ。クラウドにデータを集め、まとめて分析する。AIが学習し続けられるという利点はあるが、リアルタイム性などが要求される用途には向かない。
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*1 ニューラルネットワーク 人間の脳を模した計算アルゴリズムの一種。人間の脳は非常に多くのニューロン(神経細胞)で構成されており、ニューロンの相互作用を模したのがニューラルネットである。特に多層構造のニューラルネットを用いた機械学習をディープラーニング(深層学習)と呼ぶ。

 一般に、ディープラーニングのニューラルネット(以下、ディープ・ニューラルネット)は、アルゴリズムとしての完成度を高める「学習」の過程で膨大な計算資源を必要とする。一方、学習結果を実行するだけであれば、そこまでの計算資源は求められない。計算資源やネットワーク帯域などの制約が多い現場の組み込み機器でAI を活用するには、学習済みディープ・ニューラルネットを実装するのが“現実解”であるとルネサスは判断した。

 従来、ディープ・ニューラルネットはクラウド上で運用されることが多かった。末端側のデータをクラウドに上げ、そこで学習や分析を行って、分析結果を末端側に返すという方式である。しかし、この方式ではリアルタイム性が強く求められる自動運転車やスマート工場といった用途に対応できないと、同社代表取締役兼最高経営責任者(CEO)の呉文精氏は指摘する。「クラウド方式ではどんなに短くしてもデータ収集から応答までに0.5秒はかかるが、末端側にAIを実装する方式なら0. 005秒で済む」(同氏)。さらに、データ通信量の削減や秘匿性の高いデータの保護といった観点からも、末端側にAIを実装する方がユーザーにとって利便性が高いという。