生産性向上からビジネスモデル転換まで、大きな可能性を秘めるスマート工場。その実現に向けた課題はどこにあり、先駆者たちはどう解決しようとしているのか。「製造業再強化」をテーマに2017年3月に大阪と東京で開催された「FACTORY 2017 Spring」では、国内外のさまざまな事例が紹介された。

ものづくりを民主化

 「スマート工場の最先端は『中小企業』『ベンチャー』にあり!!」と題するパネル討論には、双葉工業製造部次長の脇坂和典氏と、カブクのインダストリアルデザイナーを務める横井康秀氏が登壇(図1)*1。それぞれの取り組みや描いている将来像について語った。

図1 パネル討論の様子
図1 パネル討論の様子
左が双葉工業の脇坂氏、右がカブクの横井氏。
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*1 モデレーターは、日経ものづくり編集部が担当した。

 愛媛県松山市に居を構える双葉工業は、精密部品の加工メーカーである。1987年の創業で、従業員は46人。マシニングセンター(MC)をはじめとする多くの工作機械を保有し、「多品種少量生産を行っている」(同社の脇坂氏)*2

*2 双葉工業は、自動化装置などを設計・製造するヒカリ(本社愛媛県東温市)のグループ企業として、主にヒカリ向けの精密部品を加工している。

 カブク(本社東京)は2013年設立のベンチャー企業で、従業員は30 人ほど。「デジタル製造技術による『ものづくりの民主化』を目指している」(同社の横井氏)という。具体的には、世界30カ国以上にある工場群をネットワーク化することで、積層造形や切削加工、プレス加工など多様な工法に対応したオンデマンド製造サービスを展開し、顧客の試作や少量生産を支援している。

 双葉工業の脇坂氏は、スマート工場の取り組みとしてデータ活用を挙げた。生産ラインのデータを収集・分析することで、実績や兆候の見える化、工具寿命管理、設備管理保全などを実現している。データの収集・分析には、ジェイテクト製のコントローラー「TOYOPUCAAA」を使った。同コントローラーは、工作機械のNC装置に接続し、各種データを収集・表示・解析するもの。現在、双葉工業では横型MCに適用している。

 例えば、工具寿命管理については、各工具の情報を取得し、使用時間順に並べて一覧表示するようにした。今後はワーク材質情報なども加えたデータを解析し、工具の寿命予測などにも取り組む予定だ。

 カブクの横井氏は、「鳩サブレー」などで有名な菓子メーカーの豊島屋(本社神奈川県鎌倉市)向けに開発した小型電気自動車(EV)の事例に言及した。この小型EVは、豊島屋が本社周辺の配送業務に使うもの。ベース車両はホンダの「MC-β」で、サイドドアなどは流用したが、外装部品はすべて豊島屋向けにカブクがカスタム設計して3Dプリンターで造った1)

 量産が得意なホンダにとって、カスタム設計は小型EVの市場拡大という点で魅力的だが、自社で手を出しにくいのも事実。一方、豊島屋は欲しい小型EVの形が明確に見えているが、ものづくりの経験がない。その両者の間にオンデマンド製造サービスを手掛けるカブクが入ることで、マス・カスタマイゼーションという新しいものづくりが可能になると横井氏は語る。