次世代スマート工場の“動脈”ともいうべきフィールドネットワークの覇権争いが激化している。近年、この分野ではEthernetベースの通信規格が普及しつつあるが、ここにきて同じEthernetベースの新興勢力が登場した。それは、IEEE 802.1で標準化が進められている「Ethernet TSN(Time-Sensitive Networking)」(以下、TSN)である。
“囲い込み”がイノベーションを阻害
「ユーザーは、ベンダーの独占的なエコシステムに囲い込まれている。このことは、イノベーションや新しいソリューションの誕生を制限し、ユーザーが生産システムを最適化できない事態を招いている」─。2016年11月下旬、米General Electric社やスイスABB社、ドイツBosch Rexroth社など名だたる企業が連名で出した声明は、現在のフィールドネットワークを巡る状況への厳しい指摘に満ちていた。これは、同時期にドイツ・ニュルンベルクで開催された産業用制御システムの展示会「SPS IPC Drives 2016」で発表されたものである(図1)*1。
その主張は、こうだ。現在、フィールドネットワークには多くの通信規格が“乱立”しており、それらの相互運用性(interoperability)は十分に確保されているとはいえない。従って、スマート工場やスマートグリッドといった、産業用IoT(IIoT:Industrial Internet of Things)の技術を活用したスマートな社会システムの実現に支障が出ているというわけである。
そこで、これらの企業が代替ソリューションとして提案しているのが「OPC UA TSN」である。これは、「OPC UA(OPC Unified Architecture)」という通信規格をTSNで拡張したものだ。なぜOPC UA TSNが次世代スマート工場の通信ネットワークの有力候補として浮上してきているのか、順に説明していく。