過去の震災や事故の経験は、サプライチェーンの復旧に生かされたのか──。

 2016年4月14日と16日の2度にわたり震度7の強い揺れに見舞われた熊本地震。トヨタ自動車グループでは、部品メーカーの工場が被災し、部品の供給が滞って全国の工場で稼働を一時停止した。半導体メーカーではルネサスエレクトロニクスやソニーの工場も稼働を停止。海を越えた米国でも米General Motors社が部品供給の不足を理由に、4工場の稼働停止を決める事態となった。

 とりわけトヨタ自動車グループが受けた影響は大きかった。地震直後に、「レクサス」を生産する子会社のトヨタ自動車九州の宮田工場(福岡県宮若市)などトヨタ系3工場の稼働を停止(図1)。その後、4月18~23日に、国内で30ある完成車組み立てラインのほぼ全てが順次稼働を停止した。

図1 トヨタ自動車九州の宮田工場の生産ライン
図1 トヨタ自動車九州の宮田工場の生産ライン
「レクサス」ブランドのSUV(スポーツ多目的車)など高級車を生産する。
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 だが、そこからの生産再開の動きは迅速だった。4月25日以降に、「プリウス」を生産する堤工場(愛知県豊田市)、「アクア」を生産するトヨタ自動車東日本(宮城県・大衡村)の工場を皮切りに順次生産を再開。5月6日には、国内全ての完成車組み立てラインが稼働を再開した。

 「熊本地震では問題の特定と対応の早期化ができた。クルマは1台当たり3万点の部品から構成されており、車種も多い。トータルで数十万点の部品がある中で、(供給に問題が生じる)リスク品目を特定して、優先順位をつけて順次対策を実行した。仕入れ先と部品の供給状況を早急に把握できるデータベースを整えた効果も出た」。トヨタ自動車の取締役専務役員である早川茂氏はこう説明する。

 トヨタ自動車は2011年の東日本大震災の際にも、部品供給が滞ってサプライチェーンが寸断され、多数の工場が稼働を停止した。この教訓を生かして、災害発生時の初動の迅速化に取り組んできた。

 具体的には1次部品メーカー(ティア1)だけではなく、そこに部品を供給する2次部品メーカー(ティア2)などを含めたさまざまな部品の供給状況と、代替生産がどこで可能かを把握できるデータベースを構築している。