「三菱自動車が燃費不正を行った理由は、軽自動車の低燃費技術開発に十分なコストを掛けられなかったから。問題の根っこにあるものは、大衆車故に排出ガス浄化システムに必要なコストを掛けようとしなかったドイツVolkswagen(VW)社の排出ガス不正問題と同じだ」。トヨタ自動車でエンジンの設計開発を手掛けた経歴を持つ愛知工業大学工学部機械学科教授の藤村俊夫氏は、三菱自動車の燃費不正問題が起きた理由をこう分析する。

図1 苦悶の表情を浮かべる三菱自動車社長兼最高執行責任者(COO)の相川哲郎氏
図1 苦悶の表情を浮かべる三菱自動車社長兼最高執行責任者(COO)の相川哲郎氏
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 2016年4月20日、三菱自動車は軽自動車の型式認証取得において燃費試験に使うデータに関する不正を行っていたと発表。同社社長兼最高執行責任者(COO)の相川哲郎氏は「意図的な不正があった」と認めた(図1)。

 現在、日本では燃費を台上試験で評価する際に「走行抵抗値」というデータから負荷(等価慣性質量)を決める。不正に操作したのは、その走行抵抗値だ。対象車種は、2013年6月から自社向けに生産している「eKワゴン」「eKスペース」と、日産自動車に供給して同社が販売する「デイズ」「デイズルークス」の4車種(図2)。2016年3月末時点で、eKワゴンとeKスペースは累計15万7000台が、デイズとデイズルークスは累計46万8000台が販売された。

図2 燃費不正の対象車種の1つである「eKワゴン」
図2 燃費不正の対象車種の1つである「eKワゴン」
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 この走行抵抗値の不正操作により、三菱自動車は燃費を実際よりも5~10%良く見せていたと発表。その後、同年5月11日には燃費が最大で約15%も実力に対して上に乖離していた車種があることを明らかにした。

 走行抵抗は、車両走行時の転がり抵抗と空気抵抗を足し合わせたもの。転がり抵抗はタイヤと路面の間で生じる抵抗で、車速によらず一定となる。一方、空気抵抗は車速の2乗に比例して大きくなる。そのため、横軸に車速を、縦軸に走行抵抗を取ると、走行抵抗値は図3に示すような2次曲線として近似できる。